資格認定プログラムでの学びを振り返って

私は、IT技術者として約15年間システムの設計・開発に携わった後、現在は大阪府内にある運搬機器メーカーの総務部門に勤務しています。

本業の傍ら、休日には野良コンサルタントとして、プロボノ活動の機会を見つけては主に個人事業主の方を対象とした経営のアドバイス等を行っているのですが、日曜コンサルタントでは大きな案件に携わることが難しく、また、クライアントの殆どが家族経営であるため、この分野での知見を広げたく資格認定プログラムの受講に至りました。

前職ではシステムエンジニアとして、長らくお客様や社内部門に対して業務改善の提案を行ってきましたが、ITシステムの導入や活用推進にあたっては、業務に携わる従業員のモチベーションや経営者の適切な意思決定が求められるなど、組織を取り巻く多様で複雑な要素に翻弄され、目標とする成果が得られるまでに何度も回り道をしなければならない日々が続いていました。

そのような非効率な状況を脱し、問題解決のスピードアップを図るためには、経営や組織運営に関する包括的な知識が必要になると考え経営学を中心に広く学習を始めたのですが、学びを深めるにつれ、経営における多くのトラブルの根底には「スリーサークルの不均衡」という問題が潜んでいる事を徐々に実感するようになりました。

社内外で感じた「ビジネス」への偏重

少ない経験ではありますが、私の勤務先を含め、コンサルタントの立場で携わったことのあるファミリービジネスに共通する問題として第一に挙げられるのは、スリーサークルモデルにおける「ビジネス」への意識の偏りが強いという事でした。

経理部門がオーナー家の資産管理の一部を担っていたり、ファミリーによる意思決定や現場への介入を公私混同と捉え、批判的な声を上げる労働者に悩まされる企業は少なくないと思います。

或いは、親族に分散した株式の集約・整理のために、管理部門の従業員がオーナー家のミーティングに応じると、就業規則や職務分掌規程を持ち出し「それは本来の業務ではない」「経営者に気に入られようと点数稼ぎを行っている」といった非難の声があがる事も想像に難くありません。

いずれも、スリーサークルモデルにおける「ビジネス」こそが経営の本質であるという狭い視野に止まり、「オーナー」や「ファミリー」をビジネスとは無関係の存在と位置付けることから生じる不協和であり、たとえオーナーファミリーが従業員を家族のように想っていたとしても、受け手に正しい理解が備わっていなければ足並みを揃えることは難しく、互いの行動原理の食い違いによって組織の凝集性が損なわれる例は枚挙に暇がありません。

恥ずかしながら、資格認定プログラムで学び始める以前の私は「スリーサークルの均衡が企業にとっての強みの源泉となりうる」という考えに至っておらず、「ファミリーとその問題はプライベートで不可侵なもの」として思考から除外し、真にクライアントの立場に立って物事を考えることができていませんでした。(FBAAにて成長の機会を頂けたことに感謝しています。)

「近代ビジネスの姿」と新しい価値観

資格認定プログラムにおいて教示を受けた「ファミリービジネスを脱することが近代ビジネスの姿であるかのような認識が広がっている」という言葉は、私に繰り返し多くの気付きを与えてくれました。

同族企業や家族経営という言葉には今なお「発展途上」や「未成熟」といったイメージがつきまとい、多くの企業において“早期に株式上場を果たし創業者利益を獲得する事こそが目指すべきゴールである”と唱えられています。

高額な報酬を求めて、或いはビジョンを実現する為に、経営資本の分散など「ファミリービジネスを脱する」判断も時には必要となるかもしれません。しかし、私は自身がファミリービジネスに勤務する上で、しばしばその判断を押しとどめる“ファミリービジネスならではの心地よさ”というものを実感しています。

その形容しがたい“心地よさ”の正体は、全従業員がオーナー経営者と家族ぐるみの付き合いを実現できているという安心感であり、そのような密度の濃いネットワークが形成されることで、契約関係を越える深い結び付きが生まれているものと感じています。

従業員が高い賃金よりもワークライフバランスの充実を求める傾向が強い昨今の労働市場において、このような繋がりを持つ“調和の取れたファミリービジネス”という価値への注目は今後高まっていくのではないでしょうか。

時代の変化と共に社会貢献や環境問題への関心が高まり、昨今ではSDGsやESG投資など、企業に対しては事業目的や在り方そのものを見直すことが求められ、同時に労働者に対してもこれまでとは異なる価値観の中で歩むことが求められています。

このような先の見えない時代にあって、私自身が閉塞的な枠組みの中に止まってしまうことなく、従業員とコンサルタント双方の視点に加え、スリーサークルという広い視野をもって、ファミリービジネスの調和と成長に貢献できるよう、引き続き研鑽を続けていきたいと思います。

Top