事業承継時の税負担を軽くするために大事な考え方

自社で事業承継を進めたいが、できる限り税負担を軽くするにはどうしたらいいでしょうか?

これが、税理士の資格を持ち事業承継のコンサルティングを行っている私のところにいらっしゃる中小企業経営者の方の中で最も多いご相談です。

本記事では、私のこれまでの事業承継サポートをしてきた経験や気づきをもとに、「事業承継時に税負担を軽くするために大事になってくる考え方」をお伝えしたいと思います。

事業承継の優遇税制を活用するためには事前準備が必要

諸外国に比べて相続税が高い日本では、後継者や相続人のことを想うと、キャッシュアウトはできるかぎり少なくしたいと考える中小企業経営者がほとんどです。

長寿企業や毎期利益を出して成長拡大する中小企業は特に税負担が重くなりがちであるため、それをいかに軽減するかは事業承継の際の悩みの種となっています。

日本経済を支えている中小企業の事業承継を円滑に進めることは、わが国にとり喫緊の課題です。そこで、いわゆる団塊の世代の経営者が引退年齢を迎えることに合わせて、ここ5年くらいの間に事業承継に関する税制上の優遇措置や支援策が多数用意されました。

しかし、これらの制度をうまく活用しながら円滑な事業承継を実現できている企業は残念ながら多くありません。なぜなら、活用するためには、そのための準備や心積もりが必要だからです。

「何のために事業承継をするのか」という目的に立ち返って考える

税負担が気になりはじめると、「いかに税負担を軽減するか?」が事業承継の目的にすり替わってしまうことがあります。

本当の事業承継の目的とは何でしょうか? ファミリービジネス経営論によればそれは、“ファミリーの繁栄と、ビジネスの永続を実現すること”です。

事業承継を実行することにより、創業一族の全員が納得できてハッピーになれ、さらにビジネスも後世まで続いていくようなプランを目指します。

目的を見失いそうになったときは、常に「何のために事業承継をしているのか?」という目的に立ち返っていただくと、どのようなプランニングがファミリーとビジネスにとっていいのかが明確になると思います。

ファミリービジネスアドバイザーの役目

かくいう私も、会計業界に入り事業承継のサポートをするようになってから数年の間は、この目的をはっきりと意識できていませんでした。

そのため、事業運営がやりやすく、かつ、税負担も軽減できる「完璧な」プランニングができたと思い、中小企業経営者の方にも喜んでいただけたのに、実行に移せないケースがあり、悶々としていました。

なぜ実行に移せなかったかと言うと、そのほとんどのケースで他の経営陣やファミリーの一部の方や第三者の少数株主の同意が得られなかったためです。

税理士の資格だけでは、事業承継問題を解決するには限界があると個人的に感じはじめました。そこで、ビジネス面でのアドバイスもできるよう中小企業診断士の資格を取得し、ファミリービジネスアドバイザーの認定資格を取ることで、ようやく事業承継の目的が何なのかというところにたどりつきました。

ファミリービジネスアドバイザーは、ファミリー(創業家)、ビジネス、オーナーシップの3つの視点で同族企業の問題や課題を整理することができます(このフレームワークを「スリーサークルモデル」といいます)。

関係良好なファミリーは様々なプランを積極的に選択可能

ファミリービジネスでは、関係者がファミリーやビジネスについて複雑な感情を抱えているケースが散見されます。それゆえ、“ファミリーの繁栄と、ビジネスの永続”のために、このプランがベストであるということを一人一人に時間をかけて説明していく必要があります。

コミュニケーションが取れており関係良好なファミリーでは、計画をスムーズに進めることができます。事業承継に関する優遇措置や支援策をうまく活用することができ、その結果として税負担を軽減することにつながります。

事業承継のルールを定める

関係が良好であることに加えて大切なのは、「ルールを決めておく」ということです。日本だけでなく海外の老舗の優良企業は、事業承継に関してルールをあらかじめ定めているところが実は多いです。

ファミリーは、「平等」であることを基準に動きます。一方、ビジネスでは、基本的に利益をあげることを目的としますので、「能力」や「成果」を基準に動きます。したがって、ビジネスの代表者には、一般的に、「有能であること」や「優秀であること」が求められます。

しかし、ファミリービジネスでは、自分の子供は皆平等に扱いたいというファミリーとしての気持ちが、ビジネスに持ち込まれることが往々にしてあります。そこで、事業承継のためのルールを作ります。

たとえば、ビジネスに関与できる(グループ会社に入社できる)のは、「本家や分家の同一世代から1人だけ」、であったり、後継者になる人の条件として、「同業他社での勤務経験年数が3年以上あること」、「日本語以外の言語を2か国語以上マスターしていること(主に海外との取引がある企業)」、「グループ会社1社を任せて〇年以内に経常利益〇円以上の業績を残す」、であったりというようなルールを、自社に合わせて定めておきます。

こうして事業承継のルールを定めておけば、ファミリーとビジネスの異なる価値基準を仕組みによって峻別することができます。

関係良好、事業承継のルールを定めた先に、円滑な事業承継がある

タイトルから、いかに税負担の軽減するのか? というテクニックの話が展開されると思った方もいらっしゃったかもしれませんが、ファミリー間でのコミュニケーションを円滑にし、ルールを定めてファミリーやそれ以外の関係者全員の納得感を高めることが、税負担の軽減への近道だと思っています。

税負担軽減は、税理士の専門分野ですので、大枠さえ理解しておけば、細かいところは任せてしまえば問題ありません。しかし、親族間でのコミュニケーションがうまくいっていなかったり、ルールが不明確だったりすると、プランニング段階から前に進むことができません。

時にはファミリーだけで解決することができないこともあるかもしれませんが、その場合は第三者である専門家や支援機関にうまく頼りながら、ぜひ円滑な事業承継を目指していただけたらと思います。

事業承継のサポートがライフワークだと思っていますので、この記事を読んでくださった方にいつかどこかでお会いできる日を楽しみにしております!

Top