支援企業(同族企業)に見る事業承継の課題と三位一体支援の重要性
1.はじめに
筆者は、第7期フェロー(2019年受講)で、鹿児島県で中小企業診断士事務所を営んでおります。
開業して10年経った頃、後継者育成支援の必要性を感じ、2014年5月から若い経営者や後継者を主な対象者として経営塾を開始。
ほぼ毎週開催しており、早いもので丸7年が経ちました。
最初から参加されている後継者は、7歳年を重ねたことになりますが、それに伴って、かなり業績も向上し、代表者交代ももう間近という方もいらっしゃいます。
開塾当初は、「継いでもいいと思える会社にしていくための経営改善が目標」でしたが、現在では一歩進めて、いかに経営革新(差別化対策)を講じるかがテーマとなってきています。
2.支援企業(同族企業)の成果・課題
この7年間に支援した同族企業の中で、顕著な成果を出している業種・業態の違う3社について、三位一体支援(ビジネス支援、オーナーシップ支援、ファミリーシップ支援)を実施したことによる成果・課題について、以下にご紹介します。
A企業(食品製造業)
- ビジネス支援
2015年から支援開始。直近期末で売上48.3%、経常利益55.4%向上し、6期連続の黒字決算を終えた。 - オーナーシップ支援
株式移転を提案し、後継者が筆頭株主に(オーナーシップ確保)。数年後に代表権の移譲予定。 - ファミリーシップ支援
これまで関係性が薄かった株主ファミリーとも、ある企業イメージ発信を契機に交流を図った。
B企業(飲料製造業)
- ビジネス支援
2018年から支援開始、直近期末で売上15.7%減少したものの、経常利益29.0%向上し、3期連続の黒字決算を終えた。 - オーナーシップ支援
後継者への株式移転を提案、一部実現。今後は事業承継時期を視野に、株式集中化移転が課題。 - ファミリーシップ支援
家族の結束によって、業績改善効果が出ている反面、現経営陣の承継後の役割分担が課題。
C企業(農畜産物卸売業)
- ビジネス支援
2020年から支援開始、直近期末で売上37.6%、経常利益1,371.8%向上し、2期連続の黒字決算を終えた。農業からの業種転換を図り、事業再構築が完了した。 - オーナーシップ支援
現経営者(49歳)は2代目で、近年、創業者が他界。既に筆頭株主となっている。 - ファミリーシップ支援
家族を含め、まだ後継候補者はいないが、今後10年以内に3代目の探索を進める予定。
3.三位一体支援の重要性
ここ数年にわたるファミリービジネス・コンサルティングの実践によって、ファミリービジネスにおいては、ビジネス以外に、オーナーシップ、ファミリーシップの支援が必要不可欠で、それにより成果が上がることが実証できました。
それ以前はビジネス支援だけを行い、それ以上やることは越権行為(本心は複雑で難解な業務であることによる忌避)となるのを恐れて、尻込みしていました。
そのため、業績向上に向けて改革を図ろうと思っても、オーナー株主や創業家(ファミリー)から反対を受けると、社長や後継者、役員、あるいは従業員の改革モチベーションが削がれてしまって、効果が上がらないことが度々ありました。
経営改革によってビジネスの成果を上げようと思えば、三位一体支援が重要である。
そのことをFBAAで学び、そして実践、実証できたことが、筆者にとって大きな成果でした。
4.今後の抱負
筆者も2020年に還暦を迎え、2021年から新しい人生の暦をめくることになりました。
国は「60歳から事業承継の準備を始めましょう」と普及啓蒙しています。
まさにその通りで、業績の良し悪しにかかわらず、少なくとも10年ぐらいの承継期間を設けた方がよいと思われます。
人生100年時代とはいえ、人間いつどうなるか誰もわかりません。
早めの取り掛かりが肝要と思われます。
引き継がせる方の気持ちも多少わかる年齢になった今だからこそ、次世代を担う経営者・後継者育成を主眼に、長期スパンでファミリービジネスの強みを生かした経営支援にまい進したいと存じます。
Author Profile
保有資格:中小企業診断士、国家資格キャリアコンサルタント
経歴:1983年に中央大学経済学部を卒業後、鹿児島市の広告代理店に14年間勤務。
その後民営の職業紹介所に5年間勤務した後に、実家の経営管理業務を手始めに中小企業コンサルティングを開始。
2004年にシオン経営コンサルティングを開業以来、従業員100名以下の中小企業、とりわけ30人以下の中小企業経営者・後継者を対象にセミナーや地域密着型コンサルティングに従事。
現在は、独立行政法人中小企業基盤整備機構の事業承継・引継ぎ支援アドバイザーも務めている。