創業家の役割と後継者育成について

私はファミリービジネスの3代目社長として家業と向き合っています。

まだまだ勉強中の身ではありますが、創業家の役割について・後継者育成への取り組みについて、現在の考えを書かせて頂きます。

創業家の役割の整理

会社から創業家に期待される役割は、大きく3つあると考えています。

  1. 象徴としての役割
  2. 立憲君主としての役割
  3. 絶対君主としての役割

の三つです。

私なりにこの三つの役割を言語化すると、

象徴としての役割
「いつもご苦労様、ありがとう」と社員やパートさんの存在自体を温かく包み込み、企業の理念や企業の文化を体現する存在。

立憲君主としての役割
社内の各部門長の権限を尊重し、複雑な案件は合議によって意思決定していく役割。

絶対君主としての役割
トップダウンで全て決め、社員にはその実行だけを任せる。

これらは、どれが優れているということはなく、会社の規模・置かれた環境・オーナー社長個人の能力などによっても違い、また、1日のうちでも誰と、どこで、どんな話題を話すかによって3つの立場を使い分けていくことが重要ではないかと思います。

平時においては象徴としての役割と立憲君主としての役割が比較的多く求められ、今回のコロナ禍のようなタイミングや、既存事業が衰退期に向かい、第二の創業が必要なタイミングでは絶対君主としての役割を大きくし、トップダウンで意思決定することを求められるのではないかと思います。

但し、創業者ではない私のような人間が、絶対君主としてトップダウンの権限を行使しすぎるのにはリスクを伴います。

創業者は身一つで会社を立ち上げ軌道に乗せてきた経験がありますが、私のような三代目にその経験はありません。

コロナをはじめ不確実な時代に、時にはトップダウンで物事を決める胆力も創業家に求められることですが、トップダウンのリスク(自由闊達な議論の阻害など)も十分に考慮しながら、慎重な権限行使を行う必要があると思います。

具体的には、今回のコロナ対応のように、多少の判断間違いよりもスピード重視、という局面では絶対君主としての役割を意識し、トップダウンの判断を増やしましたが、売上がある水準まで回復したら意識してトップダウンの判断を少し控える、など自分なりに条件や期間を区切ったうえで強い権限を行使しています。

後継者育成についての取組み

創業家の後継者に求められる資質とその育成について、前述の創業家に求められる3つの役割から考えてみます。

象徴としての役割
これは創業家にとって最も重要かつ、創業家内である程度育成可能なものではないかと思います。

幼少期から両親の愛に包まれ、親族の愛に包まれて育ち、年齢に応じて家業を身近に感じながら育っていく環境を整えることができれば、おのずと自分やファミリー、そして会社の社員やお取引先様を大事にしていける人間に育っていくのではないかと思います。

立憲君主としての役割
これは二番目に重要ですが、育成できるかどうかは半々といったところでしょうか。

社内の多様な意見に耳を傾け、一人一人の意見を尊重しながら論理的なアプローチで納得度の高い結論に導く。

先入観なく他人の意見に耳を傾けられる素直な心を育むとともに、論理性や質問する力など、一定のスキルが必要となると思います。

絶対君主としての役割
これは、意図した育成は困難であると感じます。

我が子がたまたま創業者のような野性的な勘、才能を持っているかもしれませんし、持っていないかもしれません。

こればかりは分かりません。

まとめると、自分や周りの人を大切にする心豊かな人に育ってほしい、という象徴としての役割については、私自身や妻・周囲の親族の子育てへの向き合い方によって、ある程度実現可能性があると思いますが、ビジネスで求められる能力について子供達に過度に期待することは、彼らの人生にネガティブな影響を与えかねないのではないかと感じています。

できるだけ子供と接する機会を多くとり、その時々の彼らの興味の対象を一緒に全力で楽しみながら、彼らの個性にあった、彼らなりのファミリービジネスとの関わり方を見いだせるように、伴走していきたいと思います。

上記のような内容は社員達にも話してあります。創業家としては後継者候補たちに可能な限りの教育をするが、その人物の能力が高いかどうかは分からない。

だからこそ、特に管理職クラスの社員は自分の専門領域にとどまらず経営学全般を学び、社内人材によって強固な組織経営ができる姿を目指してほしい、と言っています。

弊社では外部研修費は、基本的に全額会社負担になっています。

現場の方はそれぞれの現場で役立つ知識を、管理職以上の方にはそれに加えてビジネススクールの経営全般の講座などの受講を推奨しています。

創業家から送り込まれる後継者が会社の理念や文化を象徴するに足る人物であって、社内の管理職クラスが組織的に経営できる知識を持っている。

その状態が保たれれば、あとはその時の会社の状況や、後継者の資質に応じて柔軟に経営体制を整えていけば、ファミリービジネスの永続可能性は高まるのではないかと思います。

私は3代目。

一般的には初代が作り上げたビジネスモデルが衰退期に向かい、ファミリーのマネジメントも複雑化していくタイミングです。

教科書通り私の代でこの会社が衰退に向かうのか、よりよいファミリー・会社となって次世代に引き継げるのか、今回記載させていただいた内容はすべて仮説であり、今後身をもって検証していきたいと考えています。

人生を懸けるべき仕事が目の前にあること、そして、ファミリービジネスの永続のために努力できることに感謝しています。

ただ、「ベストを尽くすべき」だとは思っていますが、ファミリービジネスは「永続するべき」であるとは思っていません。

ベストを尽くしても、残念ながらうまくいかないときはあります。

自分自身に対してもそうですが、子供たち孫たちに対しても、くれぐれも、「ファミリービジネスは永続するべき」という呪いにかけられ、ファミリービジネスのために人生を犠牲にしないようにしてほしいと願っています。

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