『同族』経営と『同志』経営

「ある特定のファミリー(創業家)が会社の所有(株式)および経営のいずれか、または双方を実質的に支配しているか、会社の経営方針に大きな影響力をもつなどの企業」

これはFBAAにおけるファミリービジネスの定義である。

例えば、トヨタ自動車は創業家の議決権割合が多くないように見えるが、創業家のリーダーシップは際立った会社だと思う。一方で、世界最大級の製薬会社であるスイスのロシュは、創業家が議決権割合の過半を占めるが、創業家代表が取締役として「監督」はするものの、「執行(経営)」は完全に非同族の経営者に任せている(自分が知らないだけかも知れないが、日本でも、もっとこのような形があってもよい気がしている)。

この二社の例は、「所有と経営の分離」が可能である株式会社形態の特長を端的に表している。ただ、日本のファミリービジネスの場合、この二社の中間が多いのが実態であろう。すなわち、ファミリーで多くの株式を持ちながら、経営(執行)にも参加している形だ。

ところで、FBAAの授業で、日本の家族制度を学ぶ機会があった。武士社会の家父長制をベースにした旧民法では、絶対的権力者の戸主が家族のメンバーを決めていた。そのため、血の繋がりがなくとも、養子縁組等を用いて、家族の維持・拡大が図られた。家族は、ある意味法人のような組織だったのだろう。日本に長寿企業が多い理由の一つだとも思う。

しかし、1947年(昭和22年)に民法は改定され、家族の範囲は戸籍上、二世代までとなり、同族の範囲は、それぞれのファミリーが決定することとなった。結果的に核家族化が進み、分家間の結束力も弱まったところが多いのではないだろうか。

そのような背景もあってか、最近起業している多くのベンチャー企業は、「同族」であることよりも、「同志」であることを重視している気がする。すなわち、「この指とまれ」で、創業メンバーや資本が集まってくるパターンである。

これらのベンチャー企業では、「絆」を確認するため、ビジョン・ミッション等を言語化し、共通の価値観を大切にしていることが多い。余談だが、9月に入社したばかりの現在の職場では、会社の基本理念を一週間に最低一回は確認し合う。これは、新参者の自分にとって、組織と自分の価値観をすり合わせる大事な機会となっている。

ファミリービジネスの場合、創業家経営者が、従業員に向かって、企業理念やビジョン等を話すことは多いであろう。しかし、ファミリー(分家やビジネスに関与していない者も含む)に対してはどうであろうか?また、ファミリーがもっと結束力を高めた方がよいと感じてはいないだろうか?

もし、この問いに気付きがあったのであれば、「星野佳路と考えるファミリービジネスの教科書」(日経BP社)でも紹介されている広島のオタフクソースの事例は一つのヒントになるかも知れない。

オタフクソースでは、ファミリーの絆を深めるため、以下のようなイベントを開き、非日常を共にしているそうだ(コロナ禍の現在では、難しいものもあるが)。

  • 年4回のファミリー会に30~40人が集まっての食事会や勉強会
  • 親族そろっての初詣と2泊3日のお盆旅行(50年程度継続しているイベント)
  • 定期的なゴルフコンペ(「骨肉の争いコンペ」と呼ぶらしい)

また、創業家8家族の株式保有・報酬・定年・後継者の選定基準等を「家族憲章」として明文化し、ルールを決めて、事業承継や相続を含む将来的なトラブルを回避する工夫がなされている。

オタフクソースの事例は、会社の規模、ファミリーの人数等、「自社の参考にはならない」と思う人がいるかも知れない。ただ、小規模の同族企業でも、非同族のベンチャー企業でも要諦は同じだと考える。すなわち、「コミュニケーション」と「透明性」であり、この二点を大切にすることで、「『同族』経営」が「『同志』経営」も包含した、より強い企業になれるのではないだろうか。

今後コンサルタントとして、同族・非同族、上場・非上場等、様々な企業と出会うであろう。その際、「『同志』経営」は、一つの基軸として大切にしていきたい。

(注)ここで取り上げた個別の会社は、公表情報に基づき個人の見解を述べたものであり、実態に即していない可能性があることは、ご理解を賜りたい。また、すべてのコメントは、私が所属する組織ではなく、一個人の考えによるものであり、したがって、責任も個人に帰することを確認しておきたい。

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