非上場ファミリービジネス向けコーポレートガバナンスコードとの出会い

(本文中の略記 … FB:ファミリービジネス、CG:コーポレートガバナンス)

FBAA7周年記念イベント、イタリア研修ツアーに参加させていただいた。時差ぼけや言葉の問題で初日の講義から悪戦苦闘したものの、講義や企業訪問がびっしり詰まった数日間で、その充実ぶりは事前の期待を大きく超えものであった。

どれほど思いが込められた企画・準備・調整であったか。

現地の皆様がどれほど誠心誠意受入れ対応して下さったか。

休む間もなく一手に引受けていただいた通訳がどれほどスムーズで見事なものであったか。

ツアー実現に向け惜しみないご尽力をいただいた皆様にただただ感謝。FBAA内外から参加された方々との出会いや交流も実に有意義であった。

印象的だったのはボッコーニ大学の熱意あふれる教授陣、そして彼らと各企業との関係性。特にFBの国際競争力強化・長期的発展に向けた機能的なネットワーク、それをベースにした未来志向の意欲的な取組み、その全体像が新鮮で刺激的であった。

数日間の企業訪問をすべて終えた後、初日からずっと同行して下さったパオロ教授から研修ツアー全体を総括しての最終講義がなされた。

整理されたレビューポイントが次々と語られ講義もいよいよ終了に近づいた頃、教授ご自身も策定に関与されたという「非上場FB向けのCGコード」についてさらりと触れられた。

何とイタリアでは既に2年前に公表済みとのこと。FBの研究と振興を象徴するトピックスだと直感した。ツアー最終日、最終章での強烈なインパクトであった。

その日の夕刻、研修を締めくくる“最後の晩餐”で偶然にもパオロ先生のすぐ前に着席。その流れもあってか翌朝ホテルのレストランへ入っていくと、朝食中の先生が手招きして下さり、ありがたくごいっしょさせていただいた。

時間が限られている中、やはりFB向けCGコードについて次のようなお話を伺った。CGコードは最初から理想的な水準を目指すのではなく、実践する企業側と連携しながら長期にわたりスパイラルに発展させていく性格のものであること、フィールドでの適用・実践状況などを踏まえ5年ごとに改訂、段階的に実効性を高めていくことなど。

CGコードの本質について基本的な認識の一致を確認し、何の違和感もなく共感共鳴することができた。

日本でFB向けCGコードを策定する際はFBAA単独ではなく、関係省庁や企業団体などと連携して進めた方がよい、といった助言まで頂戴し恐縮してしまった。CGコードの英語版があればFBAA宛てに送るからと言い残されミラノへの帰途につかれた。

帰国後に送られてきた「非上場FBのためのCG原則」(英語版)を拾い読みしてみた。全文の精読に至っておらず責任あるコメントはできないが、全体構成の確かさを確認でき好印象を受けた。

既存の上場企業向けCGコードと整合させた上で、非上場FBの規模・世代・所有構造などの特性に配慮した丁寧な対応がなされており、また規範としての品位も感じられた。

コード策定の背景には、特に企業規模や国際競争力の面で、中小FBが大半を占めるイタリア特有の事情からくる相応の危機感があったであろうこともうかがい知ることができた。何より、コードの設定・運用・成果・発展に対する各分野関係者の高い志と信念、息の長い戦略的取組みへの強い意思や期待感を感じ取ることができた。

もちろんCGコードが正式発行されてから2年程とまだ日が浅く、そもそも多くの企業における実践レベルを表しているわけでもない。しかしCGコードが存在していることの持つ長期的・戦略的意味を軽く見ることはできない。

彼の地でのコードの存在が、我が日本の現在地や今後に思いを巡らすのを促してくれているようにも思われる。

帰国後、東京で開催されたFB関係の講演会・研究会のいくつかに参加する機会に恵まれた。

「未来志向のFB」(6月6日;プレジデント社主催)は、米国のジャスティン・クレイグ教授や星野リゾートの星野佳路代表の講演、その他対談やパネルディスカッションなど盛りだくさんで7時間以上に及ぶ意欲的な企画だった。

休憩時間中にクレイグ先生にアプローチするチャンスが訪れ、日本のFB研究が欧米の先進的な取組みに比べかなり遅れている点について見解を求めてみると、「その通りだ!」と即座に明快な反応。すぐに続けて日本に対する精一杯の配慮や期待の言葉も添えられはしたが。

「事業承継学会研究会」(6月17日)では、後藤俊夫教授のお話が力強く印象的だった。後藤先生が執筆された日経新聞(2008年8月29日)の経済教室「同族企業こそ経営の主流」のコピーが事前配布されており、その結びの部分には以下の記述があった。

「欧米の多くの著名大学がFBセンターを設け、研究だけでなく地域のFB振興に積極的な役割を果たしている。一方日本ではようやく研究が緒に就いた段階で、半世紀遅れの状況にある。」

この10年で少しは良くなってきたものの、まだまだ遠く及ばない状況とのご説明。

閉会後、日本のFB研究・振興の遅れとその挽回状況について後藤先生に質問させていただくと、「その通りなんだ!本当に急がなければならない!」と力を込めて語られ、その上で「ただ慌てふためいてもダメなんだ。」と付け加えられた。

尚、先生はFBAAイタリア研修ツアーの成果について既にご存知で、毎年着実にFBアドバイザーを輩出しているFBAAの活動を高く評価しているとも述べられた。

日本が上場企業のCGで出遅れ、FB研究・振興でも出遅れているとすれば、その両者がクロスする非上場FBのCGという領域における遅れも至極当然のことであろうか?

FBにもCGにも通じておられる1人の先輩にイタリアのFB向けCGコードのお話をしてみると、「世界は動いてますね!」とひとこと。

日本も動いているか?

現在地はどこか?方向性やスピード感はどうか?

そもそも危機感は共有されているか?

推進ネットワークのインフラはできているか?

旗振り役はどの機関か?

そしてCGコードの策定はいつのことか? …

日頃の勉強不足もあり素朴な疑問が頭をもたげてくる。広く周囲に教えを請い、自らも学びを掘り下げていかなければとの思いを強くしている。諸々の恩恵に感謝しながら。

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