ファミリーが継ぎたいと思う会社とは?
私がファミリービジネスに興味を持ったのは、今の仕事で2代目、3代目の経営者のクライアントが増えてきたからです。また、ファミリービジネスアドバイザーの講座に参加するまでは意識していませんでしたが、私自身も自営業の家系でした。
アドバイザー講座受講後、たまたま付き合いのあった社長から相談がありました。その社長は20代の頃に製造業を創業し、いまは社員30人くらい。規模は小さいですが、そのニッチ業界では名の通った会社になっています。
相談内容は、「息子がいるのだが、彼を後継者候補として育てたいので、自分と二人で経営のコーチングを受けたい」というものでした。
息子は私と同じ40代。いまはその社長の会社で、社員として働いています。私はちょうどファミリービジネスの講座を受講し終わった後だったので、これはタイミングがいいと思い、依頼を引き受けることになりました。
実際にコーチングをスタートし、社長の人生計画や会社の理念体系の見直し、会社の様々な仕組みづくりに取り組み始めました。
しかし、コーチングを始めて3か月くらい経ったころ、私は二人とのセッション中に危険性を感じ始めました。その危険性とは、社長と息子、二人の人生計画やビジョンに相違がある、ということでした。
社長は当初の思惑通り、息子に会社を継いで欲しい、と考えているのですが、一方の息子のほうは、まったく違う業界で自ら起業することに興味を持っていることがわかってきたのです。その食い違いが原因で、セッション中に何度か議論になることがありました。
社長の会社は製造業。業界では名が知れているとはいえ、いわゆるレガシー産業です。息子さんは私と同世代で、レガシー産業の会社を継ぐよりも、可能性のある成長産業で起業し、成功したいという思いがあったのです。親の会社を継がずに起業した私としては息子さんの気持ちが良くわかりました。
そういった状況が判明してからさらに3か月後くらい、社長はいったん息子さんを会社の外に出し、やりたいことをやらせる、と決めました。起業して成功したらそれはそれでいいし、厳しさがわかったら戻ってくれば良い、と考えたのです。私はその懐の深さにさすが創業社長、と思いました。私は息子さんのほうには、彼が起業したいと考えている業界の会社を紹介する一方、社長のコーチングは継続し、いずれにしても社長が交代してもうまくいくように会社の仕組みづくりを支援することになりました。
私はこの出来事を経て、ファミリー承継を迎える会社の社長にとって、まず何より大切なのは、「ファミリーが継ぎたい、と思えるような会社を創ること」ではないか、と思うようになりました。
ファミリーが継ぎたいと思える会社でなければ、そもそも承継のプロセスが進みません。また逆に、ファミリーが継ぎたいと思える会社であれば、万一、承継ではなく売却という手段を取ることになったとしても、高い価値が付く会社になるでしょう。
では、どういう会社であれば、ファミリーが継ぎたいと思える会社になるのか?それには、3つの条件があると思います。
一つ目は、成長可能性です。
成長可能性とは文字通り、会社が将来にわたって成長する可能性があるかどうか?
です。これは会社自体の力もありますし、いま現在選択している事業ドメインの成長性も関連してくるでしょう。
長く続くファミリービジネスの中には、成長よりも存続を重視する会社もあるようです。しかし、世の中が求める事業をしているのであれば、会社は成長していきます
例に出した社長の会社は、ニッチ業界ではすでにシェアを取っていますが、いかんせんニッチなので、成長性という意味では乏しいものがありました。それが息子さんが違う業界での起業に興味を持っている大きな理由でしょう。
ただ、もしかしたら今後、いまの技術を活かして違う事業ドメインに参入することも出来るかも知れません。
二つ目は社長の交代可能性です。
後継者候補は、この会社、自分が継いでも経営できるかな?と考えるものです。私はこの話を経営者にするときに、よく伊勢神宮の話を例に出します。
伊勢神宮は式年遷宮という“仕組み“によって宮大工の技術を伝承し、1000年以上経ったいまでも美しく保たれています。そのような建物の永続性を高める仕組みを持っていなかったギリシャ神殿とは対照的です。
会社も伊勢神宮と同じで、経営者が交代しても経営できる「仕組み」があることで、何百年も永続することが出来ます。この仕組みづくりについては、今まさに私が例に出した社長と一緒に取り組んでいるところです。
三つめは革新性です。
ここでいう革新性とは、「普通のビジネスを他社とは違う方法で行う」ことを指しています。
マクドナルドやスタバ、ニトリ、ユニクロ等々、グローバルで有名な会社のほとんどは、ありふれたコモディティ商品を売っています。実は永続している会社ほど、ありふれた商品を売っています。それらの商品は少なくとも10年経っても需要が耐えることがないからです。
ただし、他とは違うやり方で売っています。例えばマクドナルドは、創業当初からハンバーガーというありふれた商品を売っていました。しかし、当時、”店が汚くて、味も量も出てくるスピードもバラバラ“という従来のハンバーガー屋の常識を覆し、”いつも期待通りのスピードで“ハンバーガーを提供し、繁盛店になりました。
その後、フランチャイズ化し、いまのような会社になりました。
このような革新性は、やはり社長自身の志から生まれるものと思います。世界中に自社の商品やサービスを広めたい、という志があり、どうすればそれが実現できるか?と考えた時、他社とは違う革新性が生まれるのだと思います。
以上、私自身とクライアントの事例を基に、会社を継ぐ側の視点でご紹介してきました。もちろん、すべてを満たすのは非常にハードルが高いですし、数年程度で実現できるものでもないでしょう。
しかし、少なくともこのような会社作りに取り組もうという姿勢がファミリーはもとより、社員や顧客も魅了し続けるのではないでしょうか。
Author Profile
大学卒業後、マイクロソフト日本法人に入社。その後、海外不動産の紹介会社を起業した後、モバイルコマース事業の創業メンバーとして参加。
上場を目指すが経営メンバー同士の空中分解によって頓挫。海外の経営ノウハウをリサーチし続け、世界No.1のスモールビジネスの権威、マイケルE.ガーバーと出会い、日本におけるマスター・ライセンシーとなる。
現在は、日本の中小企業がワールドクラスカンパニーになるための支援活動に力を注いでいる。
仕組み経営HP:https://www.shikumikeiei.com/
学会HP:https://entre-s.com/