【勝ち続ける要素】と【企業の永続性】
この頃のお正月はテレビで大学ラグビーを見るのが習慣となっている。早明戦の華やかし頃にラグビーにはまって以来、ずっとそうしている。特に、今年は日本でのW杯イヤーでもあり、否が応でも気分が盛り上がってくる。
そのラグビー界で現在注目されているのは、帝京大学の圧倒的な強さ。現在、大学選手権9連覇中。それまでの最高記録は3連覇(1982~84年、同志社大学)だから、帝京大の強さは、前代未聞・空前絶後なのだ。
今年の正月に行われた試合では残念ながら敗れてしまい、10連覇とはならなかったが、帝京大ラグビー部の成績は傑出している。
そもそも学生スポーツは、在学期間が限られているので、毎年チーム編成が変わる。また、有望な高校生は、依然として早稲田・慶應・明治といったブランド校に行くことが多いので、採用面で特別有利なわけでもない。
それでも、なぜ帝京大は勝ち続けることができたのか。
帝京大ラグビー部監督の岩出氏は、多くのビジネス本を出し、新聞を始め、テレビ・ラジオなどのメディアにも多く出演、ビジネスカンファレンスにも引っ張りだこだ。
ビジネスパーソンも、なぜ勝ち続けることができるのか、どうやって勝ち続ける組織を作り上げたのかに関心があるようだ。彼の著書、発言を追っていくと、監督の考え方がよくわかる。
彼の目指すところは、「脱・体育会」だ。
監督は積極的に学生と面談を行うほか、メールなども多用し、学生に対しては、いつでも気軽に話ができる雰囲気づくりを行っている。一人一人違う学生の思いを尊重したうえで、部に対する各人の役割・貢献の仕方を一緒に考えていく。
また、学生間のコミュニケーションを密にするため、上下関係をなくしてフラットな組織を作った。グラウンドで的確な状況判断を行うためには、コミュニケーションが欠かせないからだ。
今では、4年生が寮の掃除、練習の機器などの片づけを行い、その間、1年生は練習に専念している。
日本一の体育会ラグビー部でありながら、下級生・上級生問わず、練習を明るくのびのびと行っている姿はマスコミが頻繁に取り上げている(昨年問題となった日本大アメフト部の強権性・閉鎖性・一過性の強さと比較すると違いはあまりにも大きいのではないか)。
また、「高い目標を掲げる」ことも彼のやり方だ。
大学選手権での優勝を毎年絶対的な目標として位置づけている。そして、高い目標を達成させるために、監督は、全力を出し切ることを学生に求め、学生も全力を出し切ろうとお互い鼓舞し合っている。
一方的な強制(上からの強制)ではなく、さまざまなコミュニケーションチャネルの存在が、学生に安心感を与え厳しい練習に対する耐性を強めていると思う。
そして、部で最も大切にしている言葉は「高潔」。監督と学生、学生同士の新体感を高めるためには、各人が私利私欲で動くのではなく、チームのため、仲間のために動くことを徹底している(他にも、徹底した医療体制、健康管理システム、食事療法等のハード面の充実も挙げられる)。
この圧倒的な戦績と彼の指導のあり方について、我々ファミリービジネスアドバイザーが参考とすべきところはないだろうか?
偶然で9連覇できるわけでもない。前代未聞の大きな成果をあげる秘訣を探れば、我々もより大きな成果をクライアントに提供できるのではないか?
私が考えるに、帝京大の成功の秘訣は、
- 明確で高い目標の設定
- 目標達成に向け全力を出し切る熱意、
- 熱意の共有
- 安心感
- 高潔を基盤とする信頼感
にある。
我々の関心ごとである『企業の永続性』に当てはめるとどうだろうか?例えば、企業存続の試金石と言われる承継時で考えてみたい。監督=経営者、学生=後継者・社員・ファミリーとして考えてみると、
(1)明確で高い目標の設定
経営理念に基づき、事業環境の変化や社員・ファミリーのあり方を踏まえ、高い目標を設定する。
(2)目標達成に向け全力を出し切る熱意
現経営者にその目標を達成する覚悟があるか。
(3)熱意の共有
後継予定者自身や社員・ファミリーに、ストレッチの効いた目標を持ち合わせるように要求しているか。
すり合わせをしているか、コミュニケーションをとっているか。
すり合わせた目標に向かって全員でやり遂げる雰囲気ができているか。
(4)安心感
コミュニケーションをとっているか。
チャレンジを奨励しているか、前向きな失敗を認める雰囲気になっているか、いつでも話しができる存在がいるか、そういう存在になっているか。
(5)高潔を基盤とする信頼感
自分の立場を強化しようとして動いていないか、高潔であることを意識しているか、周囲に対しても高潔であることを要求しているか。
以上は一例ではあるが、多くの気づきがある。
現在の日本は、事業承継の危機だと言われ、年間3万社近い会社が廃業に追い込まれている。多くは「後継者不在」を理由としているが、「実際は、後継者を育成してこなかった」、「育成する環境を作らなかった」というのが正しいのではないか。
先述の施策は、継承者と後継者との関係を、【高い目標】と【信頼感】を同時に追い求めることでより強固のものにしている。高い目標を掲げ、関係当事者の意思統一を図ることができるしたら、承継のタイミングこそが飛躍に向けた大きなチャンスとなるだろう。
世界のどの国よりも高齢化が進むわが国では、経営者の高齢化も深刻な問題だ。しかし、ここでうまく対応できれば、今後世界に必要とされる知見を得たことになる。
多分に理想論も含まれていると思うが、試行錯誤しながら最適解に近づけるよう、今後も日々研鑽を重ねて参りたい。