ファミリービジネスの承継手段としてのMBO -その考え方と意味合いー

はじめに

ファミリービジネスの繁栄には、大前提としての強いビジネス(B)があり、諍いのない、あるいは致命的な諍いを回避できるだけのファミリー(F)の絆があることが重要であることは異論のないところだろう。

更には、世代の枠を超えた繁栄を企図するのであれば、 -これこそが諍いを生じさせる要因にもなるわけだが- オーナーシップ(O)の円滑な承継が大きな課題となることもまた想像に難くない。

筆者は、M&Aや事業承継といった局面で生じる資金需要に対し、種類株式や劣後ローンといった金融商品に特化したファイナンスを提供する事業に従事している。

本稿では、このニッチなファイナンスはFBAAが目指すファミリービジネスの永続的発展にも寄与しうるとの認識の下、オーナーシップの承継手段のひとつとなるMBO(Management Buy-Out)を紹介し、次世代への承継に悩みを抱えるオーナー経営者に、またその悩みの解決を支援するアドバイザーに向け、その特徴や注意点をお伝えすることとしたい。

MBOとは

釈迦に説法の感も否めないが、MBOは「経営陣が、自らが経営する会社を買収すること」、換言すれば、「所有と経営を一体化させること」である。

一般には、ファミリービジネスにおいては経営と所有は一体化しているとみてよかろう。ところが、次世代への承継を考えるところでその状況は変わることになる。例えばこんなケースを考えよう。

  • とあるオーナー経営者には、自社株式ぐらいしか相続対象の財産はない。
  • 自身は引退した上で一定の資金を手にしたいと考えている。
  • 次世代の経営は長男に託すことし、長男もその意識の下、着実に会社で実績を積んでいる。
  • 妻は数年前に他界し、もう1人の相続人である次男は会社を継ぐ意向はない。
  • 自分に万一のことがあれば、唯一の相続財産である株式を息子2人で分け合うことになり、双方にとっても新たな悩みの種が生まれることになりそうだ。

ここには、父には保有株式の現金化への、長男には株式(=議決権)承継へのニーズが存在していることになる。株式の承継には譲渡、贈与、相続といった手法が考えられるだろうが、現金化も同時にとなるとどうすべきか。

これらのニーズを満足する手段となりうるのが、経営者(子)による、株主(親)からの株式買収、すなわちMBOである。

ただし、これはあくまで選択肢の一つであり、株式承継のタイミング、支払うべき税金の金額、時期等々を考慮した上で適切な手法を選ぶ必要があるのはいうまでもない。

MBOの取引イメージと直面するハードル、その解決策

この局面では、長男による父からの株式買収によって所有と経営が一体化されることになる。株価が高くない、子に十分な資力があるようなら、ただ株式を買い取ってしまえばよい。ところが、好調な業績を背景に株価が高い、子には買い取る資力はないという状況も非常に多い。

個人の資力のみではMBOは難しい、なにかよい方法はないものだろうか?

MBOにおける外部資金の活用

会社の信用で必要な資金を調達するという方法がある。

具体的には、MBO主体足る経営者が出資する買収目的会社(以下「SPC」)が、会社の将来キャッシュフローを返済原資に資金を調達、全株式を買収した後にSPCと合併する。この合併により、SPCの調達資金は会社の借入となる。

この種の資金はLBOファイナンス(以下「LBO」)と呼ばれるもので、銀行や筆者が従事するメザニン投資家らが供給しているが、この調達には一定の資本性資金(=SPCへの出資)が求められるのが一般である。

MBO主体たる経営者の出資では不十分であれば、メザニン投資家が無議決権優先株式で不足分を補うこともある(これも将来の償還が必要となる点には留意されたい)。

資本性資金の供給者としてはプライベート・エクイティ・ファンドも存在するが、その場合は事業成長への支援を期待できる一方で出資形態は普通株式となるのが前提である。

会社の利益が外部から調達した資金の返済に回ることに抵抗感を感じる向きは多いだろう。ただ、これはLBOの仕組みを何と比較するかによって捉え方は異なるはずだ。

株式の買取資金を個人で、あるいは個人保証の下で資産管理会社で借り入れることができたとして、その返済はどうするか?

会社から配当、高額な報酬を吸い上げて返済するのが現実的な手段だとすれば、会社の資金で返済するのと実質的に同義である。

LBOを活用したMBOは、オーナーシップの承継を、会社の資金を用いて実現することである、と理解すればよいだろう。

FBAAとMBO

FBAAのアドバイザーにとっては、オーナーシップの承継に悩む経営者に寄り添う立場として、その実現の手法としてMBOという選択肢を持っておくことには意味があるのではないだろうか。

ただし、MBOはM&Aの一類型であることから、LBOでの調達を行う場合にはなおのこと、取引全体が複雑なものになる、関係当事者が多くなる(M&Aのアドバイザー、弁護士、公認会計士、税理士、資金提供者など)ことは避けられないため、十分な知識や経験、ノウハウが必要となることも付言しておく。

最後に

ファミリービジネスの繁栄に不可欠なビジネス(B)、オーナーシップ(O)の円滑な承継が難しいが故に、そのビジネス、オーナーシップそのものの外部売却を余儀なくされる例は枚挙に暇がない。

もちろん全てにあてはまるわけではないが、(必要に応じてLBOを活用した)MBOを通じて親族内承継を実現し、ファミリー(F)の絆を更に確固たるものにできる可能性があることを理解頂ければ幸いである。

追記

MBOは親族内承継のみでなく、例えば親族には後継者が不在、有能な番頭役に経営のみでなくオーナーシップも承継させたいというニーズにも対応可能なものである。

これはファミリービジネスの承継とは趣旨が異なるため仔細に触れることは差し控えるが、筆者が執筆を担当した『日本のLBOファイナンス(日本バイアウト研究所編、きんざい)』において、創業家の保有株式の売却意向に対しサラリーマン経営者がビジネスを承継すべくMBOを実施した事例を紹介している。

MBOの仕組みに加え、筆者のようなメザニン投資家がMBOにどのように関与しているのかについても触れているので、興味のある向きには参考にされたい。

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