幸せなM&Aのために大切なこと ~M&Aは買い手がすべて~

ファミリービジネスのコンサルティング・支援のお仕事をされている方が多い当協会で、私自身はオーナーという立場で勉強させて頂いております。

家業は創業八十余年になる建設業で、2015年に父から代表を引継ぎました。そして代表就任から2年後の昨年(2017年)9月に、同業者へ100%株式譲渡(M&A)をしました。

株式譲渡のプロセスには要点がいくつかありますが、今回は特に「買い手」に焦点を当ててお伝えしようと思います。

ファミリービジネスでもM&Aによる事業承継は増えてはいるものの、体験者が語る場はまだ多くありません。

この記事をお読みの方の中には、買い手になる方もいらっしゃると思います。たった一度の経験から述べることは誤解を招く点もあるかもしれませんが、「こうあってほしい買い手」について私が学んだことをまとめました。

(なお、ここに述べるのは事業承継型M&Aの場合です。事業再生型の場合はこの限りではないことをご了承ください。)

幸せなM&Aのために大切なこと ~こんな買い手だとみんなハッピー~

  1. 被買収企業を大事にする
  2. 本気の人材投入
  3. 長期目線

1.被買収企業を大事にする

契約前に口頭で「創業家を尊重します」「社員を大事にします」と言うのは簡単ですが、ここで大切なのは、大事にするという気持ちが「具体的な行動になっているか」です。

例えば私が感じた相手企業の行動には、こんなことがありました。

  • 被買収企業の歴史を知る(社史を読み込む、創業家の話を聞く)
  • 取引先への挨拶文の表現(被買収企業の社名を先に置く)
  • 被買収企業の従業員とこまめな面談、対話
  • 被買収企業の社内行事の踏襲  ・・・等々

契約前のトップ面談で、事前に渡していた弊社の社史を、買い手の社長はぎっしり赤ペンをひいて読み込んでいました。また、従業員との密なコミュニケーションや社内行事の踏襲は、従業員の安心感につながっています。

卑近な例で恐縮ですが、買収企業のこうした細かい言動の積み重ねが、M&A後の安定をもたらしていると思われます。

2.本気の人材投入

今回のケースでは、100%子会社となって弊社に新しい経営陣がきました。親会社のNo.2執行役員が、私たちの会社の実務的トップとなっています。また今回のM&Aのため、新たに執行役員に昇格した親会社の社員もいました。

買収企業が本気で被買収企業の経営を担う覚悟があるかどうかは、この人事にかかっていると思います。言うまでもなく、M&Aは買うことが目的ではありません。買った後にどんなビジョンを描き、そのために誰を派遣するか。ここに、買収企業の本気度が表れるように思います。

さらにはファミリービジネス、特に中小企業では、経営層は従業員にとって「親」のような存在です。新しいお父さん、お母さんはどんな人か、自分たちのことをちゃんと面倒みてくれるのか。不安でいっぱいの従業員たちを包み込む、度量の広い経営陣が望まれます。

そのような人は、買収企業のなかでも貴重な人材であることは間違いありません。そういう人を派遣できる人的余裕のある企業が、よい買い手になる資格があると思います。

3.長期目線

長期とはつまり、「焦らない」ということです。これも1で書いたのと同様に、契約前は「無理な改革はしない」と言いながら、買収したとたんやりたい放題、となっては信頼が損なわれます。

また、財務的に少々無理をして買収をすると、長期目線が難しくなります。すぐに成果を上げなければ・・・と数字にやっきになると、被買収企業の収益の源泉(その会社がもっているコア能力)を失いかねません。

買収の成果を上げようと思えば、被買収企業の強みを理解する時間が必要です。そして、その強みを買収企業が取り込むまでに、さらに時間がかかります。

買収後にやるべき実務は多いですが、長期的なスタンスを崩さず実務に取り組むことが、後々まで競争優位を保てるM&Aになるのでは、と思います。

以上3つの根底に流れているのは、企業としての「誠実さ」だと考えます。買収企業がもつ「倫理観」と言ってもよいかもしれません。

買収企業が被買収企業をどう扱っているか、ひいては買収企業の経営理念そのものが随所にあらわれます。そして従業員は、買収企業の言動から、安心して働き続けられるかどうかを判断するのです。

もちろんそのためには、「蓋を開けてみたら話が違っていた」ということにならないよう、売り手はありのままを伝え、隠しごとのないデューデリジェンスを遂行する義務があります。

この記事のタイトルには「『成功する』M&A」ではなく「『幸せな』M&A」とつけました。理由は、M&Aの成否は5年後、10年後になってみないと分からないからです。

ただ、弊社のケースでは現時点で売り手、買い手ともハッピーな状態であることに間違いはないので、「幸せ」という言葉を使いました。

たった一度の経験だけで分かったようなことを書いておりますが、M&Aが百社百様であることは重々承知しております。皆さまが関わるファミリービジネスの繁栄のためにお役に立てれば幸いです。

最後までお読みいただき、誠にありがとうございます。

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