ファミリー企業におけるNF(ノンファミリー)経営幹部の使命
NF(ノンファミリー)経営幹部に関する研究の難しさ
経営についてオーナーに関する文献は多数出版されていますが、NF経営幹部を主題にした文献は極めて少数で、親族内/非同族継承を比較する研究も見当りません。
その理由としてNF経営幹部は、①プロパー入社、②取引関係による外部からの招聘、③ヘッドハント、④中途入社などに分けられ、その上経験、専門性、役割などが多岐に亘るため、一括りに論じることの難しさがあるものと考えられます。
しかし、いずれのNF経営幹部にも共通する理想像は、ファミリー企業の経営理念に共感し、オーナー代々の想いを良く理解し、経営方針に基づいてビジネス(本業)のプロの使命をきちんと果たすことです。
加えて、ファミリー(オーナー家)全体に目を配り、オーナーシップ(株式の保有形態)も頭に入れることが必要です。これらのビジネス、ファミリー、オーナーシップの三要素をしっかり踏まえて、オーナーをサポートしつつ経営にあたり、ファミリー企業の永続性に貢献することが期待されます。
NF(ノンファミリー)幹部に求められるもの
ビジネスのプロとして、専門知識が抜きん出ていることは当然のことです。また、コミュニケーションを円滑にするためには、常にオーナーと従業員の中間に立ち、その距離を縮める役割を果たし、双方から一目置かれる存在となりたいものです。
また、取引先、税理士、会計士、株主など外部からのご要求を良く理解し、執行責任を果たさねばなりません。
これらを実現させるには、NF経営幹部は倫理観・誠実さ・情熱と冷静のバランス・リーダーシップ・ストレス耐性・口が硬いことなど多くの資質が求められます。
そして、オーナーとは意見の食い違いは不可避であることを覚悟し、イエスマンに成り下がることなく、常に課題にチャレンジし続けることが必須です。
NF(ノンファミリー)幹部の役割 〜人材育成〜
NF経営幹部の使命で重要な役割の一つに人材育成があります。一般的に、非同族企業ではピラミッドのトップが定期的に代わることによる新陳代謝が人材の育つ環境を整えます。
ところが、対照的にファミリー企業では、オーナーの在任期間は十年単位に及び、その間の社内の基本的な上下関係は変わりません。多くのファミリー企業は、自然に人材が育つ仕組みにはなっていないと言っても過言ではありません。
ファミリー企業のNF経営幹部育成において取るべき対策は、若い管理職の時から、一段階上位者の目線で物を考えられる判断能力を養成することです。
これにはOJTという実践の場で長年にわたり継続的に取り組むことが必要です。この「教育マインド」が全社的なカルチャーになっているかが大きな鍵になります。
これに成功すれば豊富な人材(能力の在庫)を擁し、いかなる局面が生じても適材適所を実践でき、企業の成長と永続性を保てる大きな原動力となると言えましょう。
オーナーの皆様への提案ですが、人材育成を喫緊の課題として再認識して頂き、毎年度の経営方針の末尾が定位置となっている「人材育成」をトップに据える年があっても良いのではと思います。
教育に対する労力・時間・予算を十分に手当てし、外部セミナーも積極的に利用し、「教育マインド」溢れるカルチャーを築く方針を明確にして頂きたいと思います。
そのカルチャーの醸成を実際に担うのはNF経営幹部の大きな責務です。NF経営幹部はオーナーの考えを良く理解し、ビジネスを始め経営に必要な情報に精通していますので、現場で実効的なOJTを実施できる立場にあります。
内部からの改革を推進できる担い手として、率先垂範して後進の育成に力を入れることはNF経営幹部ならではの機能です。指導を受けた部下は、いずれ自分が上の立場に立った時に、自分が教育を受けた時と同様に部下を指導し人材の再生産を行うことが期待できます。
是非とも「教育マインド」を高めて、皆様の企業が永続的にご発展を遂げることをお祈り致します。
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製造部門と総務部門を担当。この間、主力工場運営・合理化、ISO/IS16949(欧米自動車メーカーに部品を供給するための工業規格)取得、執行役員制度導入、新規事業の不動産賃貸部門のインフラ整備、不動産投資などを実施。「100年企業」を目標に、次世代に向けての持続的な仕組み作りを企画推進中。前職のメガバンクでの人事(教育・研修)、総務、ニューヨーク米国本部(総務)、カリフォルニア現地法人(M&A)、国内法人取引、銀行関連会社(不動産)など、多岐に亘る経験を現職に生かしている。一橋大学商学部卒、米国シカゴ大学経営大学院経営学修士(MBA)、宅地建物取引士、FBAAファミリービジネスアドバイザー資格認定証保持者(フェロー)