ファミリービジネスにおける女性後継者の現状とこれからの可能性について

1.はじめに

この記事を書くにあたり、「ファミリービジネス白書」を参考に読み返しました。

日本の上場企業のおよそ半数ほどがファミリービジネスであることや、小売業にファミリービジネスが多いこと、中国四国地方に上場企業の比率が高いこと、など、数字やデータでファミリービジネスを見ることで「自分の思い込み」にも気がつくきっかけとなりました。

中でも私が興味深いと感じたデータは、「女性とファミリービジネス」という項目です。2015年に発表された富豪ランキングでは、女性がその1割強を占めています。そして、そのトップ10に名を連ねた女性たちは、代々続く家族経営のビジネスの後継者として資産を増やしたり、ビジネスを成功させた夫が他界したため資産を承継したことによってランクインした方々でした。

皆さんはこのデータをどのようにご覧になるでしょうか?

 

2.リーダーの発掘を遅らせる、アンコンシャスバイアス(発見や思い込み)について

「アンコンシャス・バイアス」とは、日本語で「無意識の偏見」「無意識の思い込み」と訳される概念、自分自身が気づいていないものの見方や捉え方のゆがみ・偏りを表します。瞬間的かつ無意識的に生じる知的連想プロセスの一種であり、過去の経験や習慣、周囲の環境などから身につくものです。

「男性は運転がうまい」「若い人は発想が新鮮」「女性だから出しゃばらないほうがいい」などが典型例。組織運営やマネジメントにおいても、こうした先入観や固定観念が判断にゆがみを与え、適切な意思決定の妨げになりかねないと問題視されています。(「日本の人事部」より引用)

近年では多くの意思決定に携わる人たちの中で、重要なキーワードとなりました。日本のファミリービジネスの中にもアンコンシャスバイアスは根強くあります。そして一つの見方としては、以下のような考えが長年事業承継を難しくしてきた一因になっているとも言われています。

  • 女性は子供の世話や介護があるから、長続きしない(できない)
  • まだ若い、未熟である
  • ○歳までは、子供は母親から離さない方がいい
  • 女性はどうせ嫁いでしまう(または、結婚相手次第)
  • 女性はリーダーシップを発揮できない
  • 年上の役員や社員が納得しない
  • 女性では銀行や取引先が納得しない
  • うちの業界では、男性の方がふさわしい
  • そもそも後継者や戦力として期待されていない
  • 女性側にも参加する想定がない
  • 女性は一歩下がっているものだ

オーナーであれ、そのファミリーであれ、ファミリービジネスを支援する立場の者であれ、私たちが無自覚に「あたりまえ」「常識」と思っていることは、一体どのようなことでしょうか?

「〜すべき」「〜は、無理」と思っていることは、どのようなことでしょうか。

正しくリーダーを選び、今後に向けて育てるために、自分自身のアンコンシャスバイアスについて向き合ってみるのはいかがでしょうか。

 

3.増えつつあるファミリービジネスにおける女性の参画とその課題

近年、女性がファミリービジネスを継承する事例も増えてきました。石坂産業株式会社(埼玉県入間郡)は、産業廃棄物を扱う業者です。2代目社長の石坂典子氏は、設備の先行投資と社員教育の両面からのアプローチをし、成功へ導いたとされています。

1952年創業の平安伸銅工業(大阪市西区)は、収納用品「突っ張り棒」を中心に事業展開をしてきました。3代目経営者は竹内香予子社長。現在では女性の感性を活かして、事業に取り組んでいらっしゃいます。

不動産大手・森トラストは、後継者に末娘(長女)の伊達美和子氏を指名しました。1300年続く法師旅館(石川県小松市)も、現在の若女将が今後継承する予定です。このように、子の世代である20代〜40代ぐらいの女性も、業種に関係なくビジネス上のリーダーとして増える傾向にあります。

さらにファミリーにおける女性の持ち株比率も高まる傾向が見られ、女性は関係ないとは言い切れない現状となってきました。

そんな中、ファミリービジネスに関与する女性メンバーへの教育も急務になってきました。家族や会社の犠牲になるということではなく、自分自身が幸せである選択をすることと、同時に自分の能力や才能をのびのびと発揮できることを目指した教育や人脈形成を若年層のうちから手がける機関も増えてきました。

  • ファミリービジネスの強みや永続性についての学習
  • 女性の役割の理解とリーダーシップについて
  • 実際の女性後継者との交流や人脈作り
  • 自分自身のキャリアや強みに向かい合うこと

 

4.おわりに

今回は女性の後継者の可能性をテーマに、アンコンシャスバイアスという概念をご紹介しました。アンコンシャスバイアスのような思い込みに気がつくために大切なのは、対話をすること。そして、事実(ファクト)をみることです。

これからは、ますます多様性を実感する時代になってゆくことでしょう。時代に合わせて成長してきた実績を持つのも、ファミリービジネスにおける長寿企業の強みです。可能性に対し常にオープンにリーダーシップを発揮する人々や企業にとって、この時代が良き追い風となることを切に願います。

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