ファミリービジネスをチームで経営するために、幹部を育成する

ファミリービジネスでは、オーナーとして経営を担うトップに権限が集中します。“経営幹部がチームとなって経営していこう”というのは“なじまない感覚”を持たれるのではないでしょうか。

絶対権限の経営判断に対して、健全な異論や指摘は起きにくい。この空気感を、取り巻くノンファミリーの従業員は知っています。しかしトップ自身は自覚していないことが多い。トップが「モノが言いにくいかな?」と社内に問うた時に「はい」とは言えない…という簡単な図式です。

ファミリービジネスだけではありませんが、“チームとなって経営する”ということは実現が易くありません。チームで経営するためには、取り巻く経営幹部が自身の役割を正しく認識し、凛として振舞うことが大切です。

そのために、幹部に期待する役割と行動を伝え、その行動を体現出来るように育てることが必要です。この“伝え、育てる”過程が、トップ自身のリーダーシップを省察することにもつながります。

“自分は本当に彼・彼女たちの行動を受け容れられているか?”という問いが立ちます。

私は、長く、組織人事のコンサルティング(理念策定、人事制度策定、組織開発、人材開発)に携わってきましたが、ベンチャーと老舗企業では「幹部の人材開発」への投資スタンスに違いを感じます。

ベンチャーはさらなる規模成長を目指し、トップも“今すぐに”自分の身の丈を超えようと挑戦するために、自然と、周囲の力を借りようとします。よって、社内の人材育成に投資する。

一方、老舗企業は時間軸を長くとらえています。承継する次代に向けて、経営の旗印(理念や経営訓)を伝承し続けることに注力します。ファミリーメンバーに限った育成に留まる傾向にあります。

小城武彦さんが「衰退の法則」で、予定調和の高い経営の意思決定プロセスが、出過ぎない姿勢/高い調整・忖度力を備えるミドルを登用し、低い経営リテラシー/リーダーシップに留まる経営層を生み、予定調和を促進すると書かれています。

また、山本七平さんが「空気の研究」で、戦争直後「軍部に抵抗した人」として英雄視された多くの人は、勇敢にも当時の「空気」に「水を差した人」だったことに気づくであろうと書いていますが、意志と能力が伴わなければ“水を差す”に至りません。

水を差せる経営幹部を育てる。絶対権限によるブレない経営を続けやすいことはファミリービジネスの武器です。同時に、環境変化に処ししていける多様な視点を備なければ事業が続きません。

そのために、ノンファミリーの幹部を育ててチームで経営する。英才教育されてきたトップは、知識・教養・経営スキルを備えています。トップには“当然”とも思えることが、ノンファミリーの幹部にはわからないため、行き違い、歯がゆさを感じることも多いようです。

しかし、自分の得意以外に謙虚になり、他者を活かすことで多様な視点を備えるというリーダーシップスタイルが必要な時代ではないでしょうか。

耳に優しいことだけを囁き、指示に頷くだけの側近が事業の崩落を後押ししてしまう会社は少なくありません。これからのファミリービジネスにおいては「社内の人的資産の開発と承継」が鍵になるはずです。

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