第72回定例セミナーレポート
「「続ける」ことがすべての始まり ——ファミリーガバナンスの実践と現実」
ファミリービジネスにおいてファミリービジネスアドバイザーがファミリーに介入する機会の一つが、ファミリーの話し合いに介入するという機会ではないかと思います。
このファミリーの話し合いでは、主にファミリーメンバーによって「ファミリービジネスをよりよく行なってゆく」ための様々な話し合いをすることが主たる目的です。
最近では「ファミリービジネスのガバナンスの在り方に関する研究会」でガイダンスが示されたことを受け、話し合いを進めてゆこうとする気運が高まっているように感じます。
この話し合いそのものが、実務を行なっていると良い時もありますが悩ましいことも多い。
自身としては、そんな関心を持って、本セミナーに参加しました。
今回のセミナーを通じて、改めて考えさせられたのは、ファミリービジネスにおける支援とは「仕組みをつくる仕事」だけではない、ということでした。
ファミリー憲章、株主総会、取締役会、ファミリーミーティング。ファミリービジネスを長く続けていくためには、こうした仕組みを整えることは欠かせません。一方で、丸山氏の「仕組みが変わっても機能が変わらなければ、真の変容は訪れない」という言葉が、とても印象に残りました。
丸山氏は、自身がファシリテーションを行うことを以下の通り整理しています。セミナーではこのポイントになぞられて進みました。
1)構造化
2)規律
3)マインドセット
1)構造化のポイントについて
ファシリテーターとして家族の話し合いの中に入り、このような取り組みをされているとのことでした。
(1)観察 家族の話し合いがどのように行われているかを観察する
(2)分析 話し合いの構造を見立てる
(3)クライアントにフィードバックする 分析して見立てたことを伝える
(4)身体化する
たとえば、会議体を新しくつくったとしても、いつも同じ人が話し、同じ人が黙り、同じように物事が決まっていくのであれば、家族の関係性は変わっていません。大切なのは、何をつくったかではなく、その仕組みの中で「何が起きるようになったのか」を見ることなのだと思います。
印象的なエピソードとして、クライアントファミリーに関わる中で「子供(10代)がファミリーミーティング嫌だと言ってきたので辞めたいと言ってきた」というエピソードに触れました。ここにファシリテーターとして「では、〜しましょう(HOW)」とすることではなく、WHATを見て「何が起きているのか?」が本当にわかるまで留まり続けたということでした。
構造を観察してクライアントファミリー(システム)に何が起きているのか?を一つ抽象度を高めてフィードバックすることは、ある意味クライアントに客観性をもたらすことにもなり、長い間悩ましいと思っていたことを変化させてゆく突破口にもなり得る。
第三者が介入することの意義がここにあるのではないかと感じました。
丸山氏が示した「観察する→分析する→クライアントにフィードバックする」という流れも、今後の実務で意識したいことの一つです。
2)規律のポイントについて
ファミリーでの取り組みは、その関係によるところも事実です。
丸山氏はご自身が所属するファミリービジネスを事例に、話をしてくれました。
「自分たちで決めたことを、自分たちで守ってゆく」といえばその通りですが、それがなかなか難しい。
・関係性に影響を受ける
・個人の関心の度合いが違う
・各々の都合に影響を受ける
ファミリーガバナンスを真剣に取り組んでゆこうとされる個人が、かなり影響を受ける部分なのではないかと思います。
規律については、思った通りにならない時にどのように他の手段を柔軟に繰り出して行けるかどうかに尽きると感じました。
また、このようなファミリービジネスの取り組みは運用して、続けてゆくことが大切です。
丸山氏は「決めたことの優先順位を上げる」とも話されていました。家族で決めたことは、仕事の予定に比べると、どうしても後回しになりがちです。その家族の中で機能する形で続けられる形を模索してゆく支援の姿勢が必要であることも印象に残りました。
3)マインドセットのポイント
今回のセミナーを聞きながら、もう一つ考えたのは、ファミリービジネスマネジメントにおける「成果」とは何だろう、ということです。
ファミリー憲章ができた。会議体ができた。承継方針が決まった。こうした成果は目に見えやすく、説明もしやすいものです。しかし、本当の変化は、もっと小さなところに現れるのではないでしょうか。
これまで言えなかったことが言えるようになった。意見が違っても、話し合いを続けられるようになった。親がすぐに答えを教えるのではなく、子どもの言葉を待てるようになった。誰かが自分から次の対話の場をつくろうとするようになった。
こうした変化こそが、家族の「機能」が変わり始めたサインなのではないかと思いますし、アドバイザーやこの変化を見つけ、クライアントに伝え、一緒に育んでゆくことが役割ではないかと考えました。
まとめ:
丸山氏が示した「仕組み→機能→変容→学習」という流れは、今回の学びを整理するうえで、とても腑に落ちるものでした。仕組みを整え、その中で対話や関係のあり方が変わり、その変化が日常の中で積み重なることで、ファミリーそのものが少しずつ変容していく。そして、その姿を次の世代が見て、新しい家族のあり方を学んでいく。
特に若い世代が学ぶと、変化が早いということにも触れていました。
ファミリービジネスマネジメントに関わる身として、私はこれから、「何を提案すればよいか」を考える前に、「このファミリーでは今、何が起きているのか」を丁寧に見ることを大切にしたいと思います。
そして、家族が自分たちなりの答えをつくっていくプロセスに、急がず、決めつけず、伴走する。
ファミリービジネスが世代を超えて続いていくために必要なのは、完成された仕組みを残すこと以上に、その時々で家族自身が考え、対話し、学び続けられる関係を育てることなのだと、今回のセミナーを通じて改めて感じました。
寄稿:FBAAフェロー・執行役員 (AFBSA) 上田 雅美