FBAA第69回定例セミナー 開催レポート
「FBN グローバルサミット東京大会について 〜世界のファミリービジネスのオーナーファミリー のラーニングジャーニー」

1. セミナー概要

今回の定例セミナーでは、世界最大のファミリービジネスオーナー・ネットワークであるFamily Business Network(以下FBN)の活動について、NPO法人FBNジャパン理事長であり、キッコーマン創業家の高梨一郎氏にご講演いただきました。

FBNは毎年「グローバルサミット」を開催し、世界中のファミリービジネスのオーナーとその家族が一堂に会して集い、学び合い、交流を深める場を設けています。
33回目となる昨年10月のサミットには日本・東京で開催され、55カ国から700名を超える参加者が集まりました。今回のセミナーでは、この東京大会の概要とその学びについて報告が行われました。

2. FBNについて

FBN1989年に設立された、ファミリービジネスに関わるオーナー、経営者、親族を会員とする世界最大の非営利団体です。
本部をスイス・ローザンヌに置き、65カ国・約4,000社、20,000名超が参加しています。主な活動は、ファミリービジネスにおけるファミリーのための最新情報の共有、実践的事例の交換、学術的研究、ファミリービジネス間のネットワーク構築や国際交流を行っています。
現在33カ国に支部があり、日本支部は2002年に支部認定をされています。

3. 2024年グローバルサミットの概要

東京で開催されたサミットのテーマは
“Ownership Matters: Owning the Unknown(所有の重要性:未知を受け入れ、挑む)

主な討議テーマは以下の通りです。

  • 所有がなぜ重要なのか
  • 金銭的価値を超えた長期的な価値創造とは何を意味するのか
  • ファミリービジネス所有の独自性とは何か
  • 所有戦略を定義する際に異なる世代をどう組み合わせるか
  • 新しい世代に所有を受け入れてもらうにはどうすればよいか
  • 所有者の育成ニーズとは何か、またそのための教育をどのように開発するか
  • 所有者は誰に責任を負うべきか
  • サステナビリティの考え方がどのように適合するのか、そして最大の資産移転に於いてそれが何を意味するのか

サミットは3日間にわたり開催され、その前には「ラーニングジャーニー」と呼ばれる23日のオプションツアーが行われました。参加者は7つの訪問先から一つを選び、各地のファミリービジネス企業や文化施設を訪問しました。

本大会では英語を基調とし、日本語通訳を併用。プログラムは、Plenaryセッション7コマ、IMD(スイス・ローザンヌのビジネススクール)のFamily Business Award受賞者発表とインタビュー1コマ、6つのコミ分科会(コミュニティラボ)で構成されました。また、ケーススタディ12コマ、Small Groupによるディスカッション13コマも設定されています。

ガラディナーは、大切なプログラムの一つです。八芳園で開催され、日本文化を取り入れたおもてなしが提供され、酒類は日本酒のみとこだわりがあり、料理とのペアリングなど、開催国ならではの演出が好評を博しました。

4. 基調講演

基調講演には、高円宮妃久子殿下、伊藤穰一氏、渋澤健氏が登壇されました。

高円宮妃久子殿下は、サミットのテーマOwning Unknownに沿って、未知・未来に向けて変化を恐れずに進むことの大切さ、日本の文化や日本人の特質として、伝統と革新が共存していることを交えてお話されました。また、私達は皆、地球という船に乗っており、このかけがいのない星を守る努力をしなければならないと述べられました。

伊藤穰一氏は、AIを単なる便利な道具として見るのではなく、複雑なシステムの一部として理解する必要があると指摘。AIが各国・各地の文化に与える影響、ファミリービジネスに与える影響を中心に、AIをどのように活用していくべきか、お話をされたとのことでした。

渋澤健氏は、渋澤栄一氏が唱えた論語と算盤は過去の物ではなく、むしろ現代社会が直面する課題において、より一層意味を持ってきていること、企業の社会的責任と存在意義について、利益は結果であり目的ではない。社会に価値をもたらす営みを続けることで自然と利益は生まれる。この理念を持って未来世代に誇れる資本主義を築いていかなければならないとお話をされました。

5. ファミリービジネス事例:任天堂創業家・山内万丈氏

任天堂創業家の山内家より、Yamauchi No.10 Family Officeの山内万丈氏が登壇され、山内家と任天堂の歴史、任天堂を非同族経営とする判断、山内万丈氏が祖父の養子となり、財産を継承した経緯、その後のファミリーオフィスの構築などについて、お話されました。

ここで、山内万丈氏が立ち上げたファミリーオフィスのお話がありましたが、このファミリーオフィスの目的は、単なる資産管理ではなく、山内家の哲学・社会資本を継承することである、つまり、企業経営から離れても地域や社会への価値創出を通してファミリーの使命を果たしていく事が求められるとのお話がありました。

6. IMD Global Family Business Award受賞ファミリー

グローバルサミットの中で、IMD Global Family Business Awardの受賞ファミリーとして、ポルトガルのJose DeMello Groupの紹介がありました。このファミリーは、3代目の経営時に大きな政変でファミリービジネスが国有化され一度全財産を失う経験をした後、4代目が1からビジネスを再構築し、約5億ユーロの規模に成長させた経緯、その中で家族の結束は最大の資産であること、富を守ることよりも次世代に伝えるべき価値・責任を明確にする姿勢が重要であることを認識しました。そこで、ファミリー憲章の整備、世代間の対話の推進、透明性の確保を進めます。ファミリー憲章では①所有と経営の分離②ファミリーが経営に参加するためのルール③次世代教育とリーダーシップ育成の方針④利益追求と同時に社会的責任を果たす使命の規定、を定めました。家族憲章に基づく堅固なガバナンスと社会的使命感は当グループを支える柱となっており、今回は逆境を超えて世代をつなぐファミリービジネスの模範として評価されました。

7. 特別講演:TAITTINGER ピエール=エマニュエル氏

グローバルサミット最後の講演は、シャンパーニュ・メゾン、TAITTINGER会長のPIerre-Emmanuel氏のお話でした。テタンジェは1932年に初代のピエール・テタンジェが1734年創業のシャンパーニュ・メゾンを購入しテタンジェの名でシャンパーニュの製造販売を始めたことに由来します。戦後、2代目のジャンが大きく事業を発展させました。しかし、過剰投資や経営方針を巡ってファミリー内での対立となり、2005年に投資会社への事業売却の決定をしてしまいます。そこで、ジャンの甥にあたるピエール・エマニュエルが奔走して事業の買い戻しに成功しました。ピエールはこの経験を通しての教訓を以下の通りお話しくださいました。

① 世代交代の課題と高齢化
ジャン世代が70歳を超えても権限を手放さず、次世代への権限移譲が遅れた。高齢化によって判断力が鈍り、会社としての意思決定が遅れ、外部環境(グローバル競争や大資本の進出)に対応しきれなくなった。

②家族間の対立・意見の不一致
一族には兄弟姉妹や従兄弟が多数おり、それぞれが株式を保有。誰が経営を担うべきか、どのように成長戦略を描くか、で対立が生まれた。特に、利益分配を優先する一族と、長期的なブランド価値を守りたい一族で意見が分かれ、合意形成が難しくなった。「家族が狂ってしまった」と表現するほど、感情的な対立が激しかった。

③ガバナンス不在と意思決定の混乱
取締役会や外部の専門家を交えたガバナンス体制が十分に機能していなかった。そのため「誰の意見が最終的に優先されるのか」が不明確で、戦略的な意思決定が進まなくなった。結果的に、資金調達や国際展開のチャンスを逃し、外部資本の圧力に抗えなくなった。

④外部資本への依存リスク
外部資本は、資金の安定や国際展開のチャンスをもたらす一方で、過度に依存することは大きなリスクを伴う。外部投資家への依存が経営権の喪失や価値観の対立を引き起こした。

こうした内部の対立と混乱により、会社の将来に不安を抱いた一族の一部が株式売却を希望した。

また、テタンジェでは経営トップの独断や暴走を防ぐ仕組みとして、家族外の人物に拒否権を与えている。その人物は株主ではなく、中立的な立場で経営を見守り、社長や創業者が大きなリスクを取ろうとしたとき、冷静に「待った」をかける存在である。

ピエールは65歳で勇退するとあらかじめ決めていて、後継者選定チームを結成しました。現在は長女のヴィタリーが経営を引き継いでいます。

8. 終わりに

今回のセミナーを通じ、FBNの活動を垣間見ることができると共に、世界のファミリービジネスオーナー、ファミリーがどのようなことに課題を感じ、それにどのように対応しようとしているのか、知ることができました。

FBAAの会員・フェローは、ファミリービジネスアドバイザーとして、日々ファミリービジネスに関わっていますが、違った視点でファミリービジネスを理解する良い機会になったのではないかと思います。

【サミット総括動画】

👉 YouTubeで視聴する

寄稿:FBAAフェロー 内田博之
FBAAフェロー5期生
2024年5月まで、上場ファミリー企業において、買収、提携等の事業開発業務の責任者を務めると共に、一族の資産管理業務を担当
公認会計士・税理士、FFI Certificate in Family Wealth Advising資格保有者、日本証券アナリスト協会認定アナリスト

監修:高梨一郎様

参加者の声

ありがとうございました!世界標準に触れることができた感じです。すべきことをしている、という学びです。
(FBAAフェロー 野元義久)
デメロ家やテタンジェなどの海外事例は、あまり聞く機会がなく、大変参考になりました。
(FBAAフェロー)
貴重なお話をありがとうございました。定期的にこのような海外のケースや取り組みを学ぶ機会をいただければありがたいです。高梨先生、事務局様ありがとうございました。
(FBAAフェロー 富塚祐子)
高梨さん、ありがとうございました。聞くことのできないFBNの話が聞けてよかったです。
(FBAAフェロー 小守美行)
テタンジェのオーナーの言葉「死を意識している」=スチュアードシップに繋がるにとても共感しました。ありがとうございます。
(FBAAフェロー 鎌田崇裕)
大変貴重なお話をお伺いさせていただきありがとうございました。
ポルトガル/デメロ家のファミリー憲章をお伺いした際に、キッコーマン様のように日本の長寿企業の憲章とも近く、万国共通の普遍的な軸が認められ、深い学びにつながりました。
(FBAAフェロー 鈴田修士)
3者の事例紹介が3者三様で、改めてファミリービジネスの運営は様々なんだと勉強になりました。それに関連して、FBNに集まるファミリーはそれぞれに課題を持ちながら参加しているとのことで、改めて助言や情報提供を受ける場を必要としていると感じましたし、そういう場が大切であると思いました。
(FBAAフェロー)
グローバルな視点でファミリービジネスを考えるきっかけとなり、視座が高まりました。
ありがとうございました。
(FBAAフェロー)
海外でも世界的にもFBについて真剣に考え、実践している人たちが、しかも日本に何百人も集まっていることに驚きました。FBのことを広く知ることが出来ました。有り難うございます。
(FBAAフェロー)
世界のファミリービジネスの潮流を知り、日本(の地方)に置き換えて考えるきっかけとなりました
(FBAAフェロー 篠原弘樹)
貴重なお話を聴かせていただきありがとうございました。世界のファミリービジネス関係者の関心などがわかり大変勉強になりました。
(FBAAフェロー 野村早希)
家族である事の利点と問題点
(セミナーご参加者様)
日本企業全般における課題とファミリービジネス故の追加課題(優先課題)があることを理解した
(FBAA会員)
世界のファミリービジネスのオーナーは(1)ファミリーのチームビルディング(2)ファミリーで同じ場で同じ景色を見て一緒に考える機会(3)世界の類似ファミリー同士での意見・情報交換の場を持つ、ためにFBNグローバルサミットに集まってくるというのが私の理解したことです。アドバイザーも大切ですが、他のファミリーとダイレクトに話すことは、ファミリーにとって学びや気づきのとても大事な機会だと思います。また、ティタンジェファミリー、Jose de Mello Groupのケースは家憲の整備・世代間対話の仕組み・透明性の確保(社外の目・役割)など手遅れにならないうちに整える重要性など事例に基づいた深い学びになりました。貴重なお話をありがとうございました。
(FBAAフェロー 佐藤一夫)
悩みを語り合う「場」作りが一番難しいことが良く分かりました
(FBAAフェロー 若林泰)
世界のファミリービジネスの状況に触れることができて良かったです。貴重なお話を有難うございました。
(FBAAフェロー)

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