FBAA第67回定例セミナー 開催レポート
「これからの時代を生き抜く「アトツギ」の育成支援とあり方とは?」

FBAA第67回定例セミナー 開催レポート
「これからの時代を生き抜く「アトツギ」の育成支援とあり方とは?」
2025年のFBAA定例セミナーのテーマは「時代の変化と挑戦」です。
気候や環境の変化、世界情勢の変化、テクノロジーの変化、過疎や高齢化の問題などの様々な変化の中で、倒産や廃業のニュースも多く聞かれるようになりました。しかし、長寿企業は様々な困難を乗り越え、永続的に発展をしてきたはずです。今回は一般社団法人ベンチャー型事業承継 代表理事 山野千枝様にご登壇いただき、変化のキーマンである「アトツギ」の今と可能性に着目してみたいと思います。
講師メッセージ
アトツギとは「先代から受け継いだ価値を、時代に合わせてアップデートすることで、その次の世代に託す時まで、存続にコミットする個人」。地域経済の未来につながるポテンシャルとして全国で注目を集めるアトツギ支援。若い世代のアトツギが抱える不安や課題、今求められるアトツギ支援のあり方についてディスカッション形式で行うトークイベント。
講師プロフィール
山野千枝(CHIE YAMANO)一般社団法人ベンチャー型事業承継 代表理事
1969年生まれ。関西学院大学卒業後、ベンチャー、コンサル会社を経て、スタートアップ・中小企業支援拠点「大阪産業創造館」の創業メンバーとして2000年より参画。
ビジネス情報誌の編集長として多くの経営者取材に携わる中、中小企業の後継者によるイノベーションに着目。
中小企業とスタートアップの中間領域「アトツギベンチャー」を日本のカルチャーにするというミッションを掲げ、2018年に一般社団法人ベンチャー型事業承継を設立。承継予定者の新規事業開発や業務改善を支援する。
「アトツギのための学びのプラットフォーム~ファースト」主宰。
関西学院大学大学院 経営戦略研究科/関西大学 非常勤講師。日本経済新聞「日経ウーマンオブザイヤー2021」受賞。
著書「アトツギベンチャー思考~社長になるまでにやっておく55のこと」(日経BP)、「劇的再建~非合理な決断が会社を救う~」(新潮社)。
セミナーレポート
- セミナー概要
今回のセミナーでは、ファミリー企業の次代を担う「アトツギ」の育成支援の在り方について、講師の山野千枝氏とセミナー参加者との間で質疑応答をしながらお話を伺い、学びを深めていきました。
山野氏の具体的な活動の内容、活動を通じて見える後継者のマインドや行動の変化など、非常に興味深いお話を伺うことができました
- ベンチャー型事業承継の活動について
冒頭、山野氏より、一般社団法人ベンチャー型事業承継を2018年に開始した経緯についてお話を頂きました。
山野氏は当初、主に創業者を支援する活動を大阪産業創造館での活動、情報誌の編集長などを通じてされていましたが、そこで多くの経営者と接するうちに、日本経済を支えてきたのは後継者だと確信するようになった、とのことでした。
一方で、創業者への支援は手厚いものの、数年後に極めて高い確率で経営者になってゆくであろう若者は支援のスコープから外れていると感じたことが、若手後継者を支援するために本団体を開始した動機である、とのご説明がありました。
現在、本団体で支援している後継者は約2,400名、また、勉強のためのオンラインコミュニティを構築し、そこには約400名が参加されている、とのことでした。
- 「アトツギ」へのこだわり
跡継ぎ(後継ぎ)を「アトツギ」とカタカナ表記にしていることへのこだわりについて、大学の講義を通じて感じた若者の跡継ぎに対するネガティブなイメージを変えるため、スタートアップと比較する言葉として「アトツギ」とカタカナ表記にしている、との説明がありました。
また、「アトツギ」とは、「先代から引き継いだ価値をアップデートし、次の世代に渡すところまで存続にコミットする人」、と定義し、商標も取得しているとのことでした。
- アトツギの育成とその変化について
以前から後継者育成プログラムはあるものの、最近は時代の変化が早く、従来型のプログラムでは時代感に合っていないものが多かった、との指摘がありました。
現在、ベンチャー型事業承継で対象にしているのは世間の後継者のイメージよりも一段若い世代であるものの、最近は地方を中心に自治体もそこに力を入れるようになってきており、特に九州ではほぼ全域で行われているとの説明がありました。
- アトツギへの親からの声掛けについて
親からどのように声掛けしていくと、積極的に事業を継承しようと思うのか?という参加者からの質問に対し、山野氏からは家業を意識した原体験について参加者にヒアリングしたエピソードを披露して頂きました。
親世代は子供に事業を継承させることを躊躇し、親子で話ができていないことが多く、親が躊躇する姿を見て、子も何となく継がないと決めてしまっているケースが多い、とのことでした。
一方で、20代からから継ぐことを表明している人も一定層おり、ここで共通しているのは、親が楽しそうに働いていること、とのことでした。
- 親子間の承継に関するマインドセットについて
後継者は会社のことを何も知らないのに何となく嫌、と思っているケースが多いが、これは、親が遠慮をして過度な情報を入れていないことに起因しているのではないか、とのコメントが参加者からありました。
山野氏からは後継者として事業を継承した親世代の経営者にとったアンケート結果についてコメントがありました。自分の子供に事業を継がせたいか?との質問に対して、継がせたくないと回答した人が70%であった一方で、子供から継ぎたいと言われたらうれしいか?との問いには、うれしいとの回答が100%であった、とのことでした。
ここでは親子間の対話の重要性、また、そこに第三者がサポートをすることの重要性を認識することができました。
- 後継者のリーダーシップの在り方
後継者がリーダーシップを発揮する際に感じる見えないプレッシャーに対し、どのような支援を行っているか?との参加者からの質問に対して、山野氏からは自分らしいリーダーの在り方を優先することを後押ししている、との説明がありました。また、ファミリー企業では内向きになりがちであるため、外に聞いていく機会を作り、誰かと話をし、比較しながら自己認識をしていく機会を作っていく、とのことでした。
- 山野氏からの締めのコメント
最後に、山野氏からは、ファミリービジネスのあり様が変わる時代の潮目を感じている、これまでファミリービジネスはアンタッチャブル、と見られていたが、特に地方ではファミリービジネスは地域社会に必要、との認識になっている、とのコメントを頂きました。また、ファミリービジネスが存続するためには第三者の関与が必要で、その第三者も腰を据えて支援をしていく覚悟が必要であり、そのような覚悟のある人がやらないといけない、とのコメントを頂きました。
- 本セミナーを通じた学び
事業承継は継ぐ人があって初めて成立するもの、という明白な事実がある一方で、ファミリービジネスの承継対策は親世代に焦点を当てがちです。アトツギが自信をもって事業を承継できるようにすることが、承継という大きな課題の解決策になるということに、改めて気づかされました。
また、この問題はファミリーだけで解決することは難しく、第三者が支援する意義が大きく、ファミリービジネスに関わる社内外の関係者の重要性も認識することができました。
FBAAフェロー 内田博之
FBAAフェロー5期生
2024年5月まで、上場ファミリー企業において、買収、提携等の事業開発業務の責任者を務めると共に、一族の資産管理業務を担当
公認会計士・税理士、FFI Certificate in Family Wealth Advising資格保有者、日本証券アナリスト協会認定アナリスト