FBAA第66回定例セミナー 開催レポート
「成功するファミリービジネスの条件」
FBAA第66回定例セミナー 開催レポート
「成功するファミリービジネスの条件」
主な講演内容
日本は世界の中でトップクラスの長寿ファミリー企業が存在する国である。なぜ、このような企業が生まれるのだろうか?このような企業には共通した点があった。次世代につながる経営理念(文化)・後継者の選出と育成・事業のイノベーションといった3つの視点に向けて創業時から挑戦し続けていることが特徴である。経営理念を策定し、その理念を受け継ぎ次世代へと繋ぐ後継者を育成すること。また、長い歴史で培った事業の中には、必ず次の事業の種が撒かれている。この種に気づき事業にするイノベーション。このバランスを取ることが時代は変わっても永遠に変わることがない不変の経営の要素である。
しかし、時間が要するものばかりであり事業継承をするにはやはり10年、20年といった長期での挑戦が必要である。また、現在のように将来が不透明な時代を生きる社長と後継者は先見性を持つだけでなく、不透明の中で行動し結果をつくるタフな実現力が必要になる。
この3つの視点を私が日本とアメリカで学び得てきたことを中心にお伝えします。
講師プロフィール
髙橋 明希 氏 株式会社武蔵境自動車教習所 代表取締役社長
早稲田大学大学院(MBA)を卒業後、家業である自動車教習所の代表取締役社長に就任。人を大切にする経営を学ぶために、経営者として法政大学大学院にて研究員として学んだあと、スタンフォード大学へ客員研究員として留学。シリコンバレーにて、コーチングと中小企業のイノベーションをサポートする事業としたブリリアントホープ社を設立。
現在は、自動車教習所の経営、社長のためのリーダーシップコーチ、東京都女性従業員キャリアアップ応援事業にて経営者向けメンター、人を大切にする経営学会にて日本で一番大切にしたい会社大賞審査員を務める。また、コメンテーターとしても活動をスタート。
講演活動、日経ビジネスオンラインなどをはじめ記事執筆メディア登場多数。一児の母。
セミナーレポート
寄稿 FBAAフェロー・執行役員 (AFBSA) 上田 雅美
- セミナー概要
ファミリービジネスのイメージには、昔から行われているものを何も変えずに行っている古いイメージも多いと聞く。本当にそうだろうか。
今回は65年の歴史のある武蔵境自動車教習所の高橋明希社長をお招きし、ご自身や自社の活動からファミリービジネスの成功条件について学びました。
- 武蔵境自動車教習所と講師の高橋明希氏について
武蔵境自動車教習所は、65年の歴史のある「自動車教習所」をメインとした事業を行っています。「共尊共栄」を理念とし、2019年には「日本で一番大切にしたい会社大賞 中小企業基盤整備機構理事長賞(主催:人を大切にする経営学会)」を受賞するなど、様々な賞を受賞しています。
現在高橋社長はこの会社の経営と共に、シリコンバレーで学び、その経験を基にコーチングやセミナーを行う会社を設立(BRILLIANT HOPE, Inc.)されています。
少子高齢化や自動車離れと言われる中、武蔵境自動車教習所は本業を基盤に進化し続けています。高齢者向けの講習サービス(8,000名の参加者)、ヒューマンダイナミクスによる運転技術の企業研修(2,900名の参加)、企業内インストラクターの育成や新入社員研修、ドライブオンラインによる車の買取と販売など様々な発展を遂げています。
- 会社の取り組み
理念に基づいたマネジメントの実践が基盤になっており、「社員さん一人ひとりが成長し、やりがいを感じ、活躍できる環境づくり」を大切に、様々な取り組みが行われています。
特に印象に残ったのは、高橋社長自らがどんどん現場に赴き社員の声をかける姿や、従業員が成長しようとする姿勢を支援することなど多くの活動をお話しいただきました。人事理念と経営理念についての検討は、具体的なエピソードをお話しいただきました。人事理念を策定するにあたり、高橋社長は自社でやり取りされている当たり前の日常のやり取りの観察を行いました。「父が社員さんがやりたいということに対して、いいよと言っている姿を見た」というエピソードから、自社の経営理念が「社員一人ひとりが成長し、やりがいを感じ、活躍できる環境づくり」であることに気づきます。自社の強みである歴史や文化を大切にし、それを基に新たな価値を創造していく姿勢が印象的でした。
- ファミリービジネスの成功条件
高橋社長が実感を持ってお話しいただいたポイントは3つあり、「公私共に経営理念を軸に考える人材を育てる」「経営理念が圧倒的な差別化をつくる」とお考えだということでした。
- 経営理念(文化)
創業者や先代を理解する(当時のできごとや創業の想いを知る)
家訓や家風を理解する(会社と家の文化を理解する)
会社の歴史を学び、次の世代の語り部を育成する(理念やビジョンを社員に伝える) - 後継者の選出と育成
しっかり時間をかける。
いろんな人にチャンスを与え、見守り、徐々に責任を大きくしてゆく。
後継者ばかりではなく、幹部の育成も大切である。
徹底した現場主義
実際に現場に出てお客様を観察し、社員さんの動きを見て、褒める、その場で教育する。
これができるコミュニケーション力を身につけること。 - 事業のイノベーション
自動車教習所からサービス業だと考えるようになった
経営者自身も学ぶ
自分自身がフットワークが良いことも大切
鵜呑みにせず、自分で考え抜く
アイディアをたくさん出し(古いもの、捨てられているものの重要)、とにかく試して、取り組みをしてみよう。ただし、引き際の意思決定も大事
- 学びと今後の活動に活かせるポイント
とにかく素晴らしい活動が武蔵境自動車教習所にありました。紹介で免許を取る方が多く、働く人たちが力を合わせ、みんなで会社の理念である「共尊共栄」を実現している姿がありました。
そしてその背景には歴史があり、社員さん(高橋社長は常に「社員さん」と会社の皆さんのことをそう呼ばれていました)との対立を乗り越えた経緯があり、課題に背を向けずに愚直に誠意を持って取り組んでこられた歴史がありました。
ファミリービジネスのアドバイザーとして後継者に接するとき、後継者自身に寄り添って支援することはもちろん大切ですが、ファミリービジネスがどのように歴史を重ね、課題を乗り越えて、人々に愛されて来たのかということに後継者がまずは寄り添ってみるということも大切に提案して行きたいと思います。
後継者の方には、自社の歴史や文化を深く理解し、その上で未来に向かって新たな一歩を踏み出してほしいと考えています。