政治家もファミリービジネス 〜最近の政治家の不祥事から考える、「ファミリービジネス」におけるリスクマネジメントの必要性〜
「○○家」と表現される職業
世の中にはいろいろな職業があります。
人数で最も多いのは、会社員や公務員のような、組織に所属してその構成員として働くことを求められる職業です。他には、弁護士や公認会計士等の、有資格者でないと就けない職業があります。いわゆる「士業」と呼ばれる職業です。また、医師や教師のように、「師」すなわち「先生」と呼ばれる職業もあります
この「先生」と呼ばれる職業で、ほかに思いつくのは、やはり政治家でしょう。
「政治家」という字をよく見ると、個人の職業ながら、「○○家」という、家族やファミリーの存在を惹起させる呼び方になっています。政治家の他には、美術家や彫刻家、書道家といった芸術家、農家、実業家、投資家、といったものがあります。
これら「○○家」と表現される職業に共通することは、表に立つ者がたとえ個人であっても、職業的な成功のためには、ファミリーの支えや働きが欠かせないことを含んでいる点にあります。世で名を馳せる芸術家も、その創作活動の裏にはファミリーの支援が必ずと言っていいほどあります。農家の場合は、繁忙期には一家総出で農作業を行うことも多いと思います。
政治家の不祥事の質の変化
最近、政治家の不祥事の報道が増えています。SNSの普及や、スマホでの動画撮影の普及等の技術進歩も要因でしょうが、不祥事の質も変わってきたと考えられます。
一昔前、政治家の不祥事と言えば、ほとんどがカネにまつわる問題だったと思います。典型的なのは、「賄賂の授受があった、なかった」というような問題です。
最近表面化する不祥事は、カネにまつわる問題については政治資金の不正使用の問題が多くを占めるようになりました。加えて、不適切発言や失言、周囲への暴言、不倫疑惑、重婚疑惑等々、そのバラエティに富んできたように見受けられます。
最近の政治家の不祥事の4つのパターン
カネに関する以外の最近の不祥事には、大きく4つのパターンがあるように感じられます(重複することもあります)。
(1)軽率型
勢いでつい余計なことを言ってしまう、その場の笑いをとろうと言ったことが問題化して笑えない結果になってしまう、といった、発言が問題化することに多いパターンです。本人に悪気がないため、かえって厄介とも言えます。
(2)過信型
「自分だけはばれるはずがない」という根拠のない自信が仇となるパターンです。前々から噂になっていたから週刊誌の記者が追い、証拠を押さえられることが多いのも特徴です。本人は大丈夫だと思っていても、知らぬは本人ばかりで、既に周囲の人間には大体ばれているものです。
(3)不適任型
そもそも器ではないポジションについてしまったことで、行き詰まるパターンです。「これから勉強します」という発言をされる方に多いです。
(4)感情型
理性よりも感情が先立つパターンです。不倫疑惑などはこのパターンの典型例で、職業生命をリスクに晒してまでどうして、と周囲が嘆くことも多いようです。不倫疑惑以外でも、ストレスがうまくコントロールできず、そのはけ口が周囲の人間に向かうことで、内部に問題を抱えてしまうことがあります。
どのパターンであっても、共通点があるように見受けられます。それは、本人が意識しているかどうかは別として、実際より自分を大きく見せようとしていることと、その影響からか、物事を一人で抱えようとして、政治家としてうまくやっていくのに必要なファミリーの存在をなおざりにしてしまうこと、の2点です。中でも、後者は特に重要です。
不祥事発覚後の対応力が将来の明暗を分ける
不幸にも不祥事が発覚してしまった後、その対応が稚拙だと、職業生命にとって致命傷を負うことがあります。対応が後手に回り、適切なタイミングを逸することもあれば、何とか誤魔化そうとした結果、ちぐはぐな言動が目立ち、かえって収拾がつかなくなることもあります。
さらに、最近の不祥事後の対応での共通点としてあげられるのは、「私(だけ)が悪いわけではない」という気持ちが見透かれてしまうことです。不倫疑惑の釈明会見で、神妙な面持ちで「できたら今の関係を続けていきたい・・・」とコメントをした政治家がいましたが、首を傾げるばかりです。
それでは、不祥事発覚後に、うまく対応し、次の選挙でも当選して職業生命をつなぐのは、どのような政治家でしょうか。
うまく対応できた政治家の大半は、ほぼ間違いなく、ファミリーの協力を取り付けています。
米国の例になりますが、クリントン大統領が起こしたスキャンダルの際、配偶者のヒラリー・クリントンがうまく立ち回り、クリントン家として職業生命をつなぐことができました。
逆に言えば、ファミリーの協力が得られない限り、不祥事を乗り越えることは困難ということです。通常時も、困難時も、良きファミリーの存在があって初めて、政治家の職業が成り立っていることでもあります。
政治家の不祥事の事例を反面教師にする
政治家と同様、実業家もまた、ファミリーの支えや働きが欠かせない、「○○家」の職業と言えるでしょう。特にファミリービジネスと呼ばれる業態は、言葉通り、ファミリーとビジネスが密接に絡むため、ファミリーの在り方によってビジネスの盛衰が左右されます。
不祥事によって簡単に政治家がその職業生命の危機に直面するように、実業家もまた、ちょっとした出来事で困難を迎えることがあります。特に、地域に根差した事業を行っている場合、地元での評判、世間の目というのは無視できない要素となります。
ビジネスさえ順調ならそれで良いと言い切れないのが、ファミリービジネスの難しいところです。ビジネスで不祥事を起こさないことは当然として、ビジネスオーナーやファミリーメンバーが不祥事を起こさないように予防する、また、万が一不祥事が起きてしまったような場合に、ダメージを最小限に抑えるためにファミリーがどのように対応するのか、といったリスクマネジメントの発想が、ファミリービジネスの存続には欠かせません。
ファミリービジネスにおいては、そのような成功例や失敗例はなかなか表には出てきません。しかし、幸か不幸か、政治家の不祥事の事例は豊富にあります。不祥事の際に、政治家及びそのファミリーがどのように対応し、その対応に世間がどう反応するのかといった事例を収集しておくだけでも、ファミリービジネスのリスクマネジメントを考えるにあたって、価値があることだと考えます。
Author Profile
コンサルティング及びアドバイザーサービスに従事する。
また、(一社)証券リサーチセンターでアナリストレポートを執筆している。
大学卒業後、プライスウォーターハウスクーパースコンサルタント(現日本アイ・ビー・エム)等を経て、2001年から12年間、日興アセットマネジメントにて、主にファンドマネージャーとして日本株の運用に従事。その後独立。
米国公認会計士(ワシントン州登録)
CFP(日本ファイナンシャル・プランナーズ協会認定)
日本証券アナリスト協会検定会員及び同協会認定シニア・プライベートバンカー
一般社団法人日本ファミリービジネスアドバイザー協会(FBAA)・ファミリービジネスアドバイザー資格認定証保持者(フェロー)