議決権を保持しながら株式を譲渡する方法

ファミリービジネスに限らず事業を承継するというのは様々なハードルがあるものですが、株式の承継の方法やタイミングも重要な課題です。

株式を持ち続けると相続財産として相続税が課税されるので、計画的に、できればなるべく株価が低い状態で、後継者に株式を譲渡したいと考えるのは当然です。

しかし、課税対象になる財産としての株式は渡したいと思っても株式の要素である株主総会での議決権(≒会社の支配権)や、経営権はまだまだ譲りたくないと思われる方も多いです。

中小企業の社長はスリーサークルモデル(所有と経営と家族の三つの円)の中心にいることがほとんどで、経営権と株式を完全に保持していることも少なくありません。

株式会社は所有と経営が分離できる仕組みではありますが、実際は一体となっているケースがほとんどで、経営(代表取締役であること)を保持しながら、所有(株式を独占していること)を手放すという決断をできるオーナーは決して多くはありません。

税金対策のために、株式という資産を譲りたいタイミングで、株式の要素である議決権(=会社の支配権)は譲りたくないという気持ちになることも無理はありません。

株式と議決権

株式には3つの権利があります。

1.剰余金の配当を受ける権利

2.残余財産の分配を受ける権利

3.株主総会における議決権

これらをすべてなくすことはできませんが、一部を制限したり、逆に増加させたりすることはできます。

事業承継を考える会社のオーナーにとって一番大切なのは議決権なので、議決権の大半が確保できれば、議決権の少ない(ない)株式を譲ることは受け入れられることが多いです。

種類株式と属人的株式

議決権を変更する方法は以下の二通りあります。

1.議決権を制限された株式を新たに作る。(種類株式)

2.人の個性に注目して所有する株式の取り扱いを変更する。(属人的株式)

種類株式は、株式が一般に公開されている会社でも作成することができます。株主総会の特別決議(原則として議決権を行使可能な株主の議決権の過半数を定足数とし、出席株主の議決権の3分の2以上の賛成を要する)による定款変更で導入が可能ですので、ハードルはそこまで高くありません。

しかし、導入後は公表するため登記が必要となります。種類株式を導入する際は、議決権を制限した株式を導入することとなります。

属人的株式は、株式が公開されていない会社でしか導入できず、導入するにも、株主の人数の半数以上の賛成と、議決権の3/4以上の同意が必要ですので、一般的にいえばハードルは高いです。

しかし、社長が100%株式をもっている中小企業であれば、社長の一存で導入が可能です。また、株主総会の決議のみで登記も不要なので、すぐにでも導入が可能で、国に費用を収める必要もありません。

属人的株式は、株式の議決権を100倍にすることも可能なので、社長個人の所有する株式を一律100倍にすれば、株式の大半を譲っても株式の議決権の大多数を握ることが可能です。

例えば、オーナー社長個人のもつ株式の議決権を500倍として、株式の99%超を後継者に譲っても、議決権の2/3以上を維持できます。また、認知症の発症や、突然の病気などで株主総会が開催できないなどのリスクを軽減するために、万が一の時には、後継者が議決権の大半を行使できるような条件を加えることもできます。

単純に、議決権を何倍にするだけではなく、条件付けをすることでリスクを減らすことができるのも属人的株式の魅力です。

最近の想い

私は司法書士・行政書士法人に所属している士業として、今回ハード部分(法的な対応など目に見える部分)の話を書かせていただきましたが、ハード部分の対応だけでなく、ソフト部分(家族の想いや社内の人間関係など目に見えない部分)に対するケアも同時に進めることが事業承継には重要です。

自分自身もファミリービジネスの後継者でもあるので、ファミリービジネスの課題が多岐にわたっているのは実感しています。ファミリービジネスオーナーにとっては、様々な方面の専門家をうまく活用することが事業承継をスムーズに進めることにプラスになることでしょう。

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