FBAA第68回定例セミナー 開催レポート
「「伝統は革新の連続」年商100万円からの老舗のリスタートについて」
老舗や伝統工芸の世界は、変化をしないと思い込んではいないでしょうか?
FBAAでは本年度のセミナー運営のテーマを「時代の変化と挑戦」としています。
今回は実践事例として伝統の技術で海外に活路を見出した、160年以上の歴史を誇る老舗企業のチャレンジをお話しいただきます。
講師メッセージ
日本の中小企業の大半は家族経営、又は家族経営からスタートした企業だと思います。
いかにして受け継いで来た事を次世代に継承するか? 何を残し、何を変えていくべきなのか?
講師の半生を振り返りながら、自ら事業者/職人として妻の実家である京都の老舗「日吉屋」を継承し取り組んで来た事及び、支援者である「TCI研究所」代表として、数多くの中小企業支援をして来た経験から得られた気づきをお伝えします。
経営者、支援者の皆様の毎日の経営と、これからのグルーバル社会における経営ビジョンを考えるきっきかけになれば幸いです。
講師プロフィール
西堀 耕太郎(にしぼり こうたろう)株式会社日吉屋 / 日吉屋Craft-lab(株式会社TCI研究所) 代表取締役

1974年、和歌山県新宮市生まれ。唯一の京和傘製造元「日吉屋」五代目。
カナダ留学後市役所で通訳をするも、結婚後妻の実家「日吉屋」で京和傘の魅力に目覚め、脱・公務員。職人の道へ。2004年五代目就任。
「伝統は革新の連続である」を企業理念に掲げ、伝統的和傘の継承のみならず、海外展開・新商品開発等に挑戦する中小企業に対するアドバイザー事業を行うため、2012年、株式会社TCI研究所を設立。全国のべ700社以上の伝統産業・中小企業に対し商品開発、ブランディング、国内外販路開拓で実績を上げる。
セミナーレポート
寄稿 FBAAフェロー・執行役員 (AFBSA) 上田 雅美
- セミナー概要
本セミナーでは、京都の伝統工芸「京和傘」の老舗・日吉屋の5代目として事業を継承し、世界市場への展開に成功された西堀耕太郎氏をお迎えし、その変革の軌跡をお話しいただきました。
伝統産業におけるイノベーション、事業承継とブランド再構築、グローバル戦略など、経営者・アドバイザーにとっても極めて示唆に富む内容となりました。
- 西堀氏が京和傘の老舗「日吉屋」の後継へ
西堀氏が現れるまでの京和傘の老舗「日吉屋」は、約140年の歴史がありながらも時代の流れに飲み込まれつつあり、4代目の経営者が細々と切り盛りしていました。日吉屋では娘が二人いましたが家業を継ぐ予定はなく、4代目で廃業をする予定でした。
縁あって当時公務員(観光課)だった西堀氏は日吉屋の娘と結婚します。
京和傘の美しさに惹かれ、29歳の時に家族の反対を押し切って奥様の実家の家業を継ぎました。当時の日吉屋の売り上げは165万円だったそうです。
- 傘の歴史は「革新の連続」
京和傘の起源は奈良時代にまで遡り、仏具から武家・茶道の文化財へとその役割を進化させてきました。
西堀氏は「伝統は革新の連続である」と語ります。変化を受け入れ、新しい価値を加え続けることでこそ、伝統は真に存続し得る。
この思想が、日吉屋を単なる継承から「老舗ベンチャー」へと昇華させる原動力となりました。
- 京和傘の美しさと伝統は革新の連続
今では数々のラグジュアリーホテルなどにも使われている日吉屋の和傘の技術を活かした照明。和傘の繊細な竹組と和紙の美しさに着目した西堀氏は、「光を透かした時の美しさ」を照明器具に応用するアイデアを具現化。「古都里」シリーズは、グッドデザイン賞など様々な賞を受賞し、日吉屋の代表的なシリーズに成長しました。
- 良いだけでは売れないを経験して〜市場戦略の再構築
2008年ごろから海外事業も展開。様々なコンベンションにも出展。日吉屋がますます成長する中で、西堀氏は「どうしたら売れるのだろうか?これはみんなの課題ではないか?」と考えるようになります。
「売れるもの≠良いもの」で悩んだ結果、たどり着いたのが「ユニークネス(独創的)」。そこの会社の哲学や歴史を物語化することにより、ブランディングにも力を入れるようになったそうです。
- 自らの経験を他の伝統工芸品にも活かす〜TCI研究所の設立へ
西堀氏は2012年にTCI研究所を設立。他の伝統工芸品にも日吉屋の経験を活かし、商品開発や海外への販路開拓をサポートしています。
今ではのべ約800社以上の企業の支援をしています。
日吉屋独自の「Next Market In」と呼ばれる手法では、これまでの日吉屋の活動の中で培った海外での人脈を活かした「売れる商品の開発」が体系化されており、日本の伝統工芸がさらに革新し世界中の人の手に渡っています。
- 本セミナーでの学び
西堀氏より「伝統は革新の連続」と言うメッセージがありました。
日吉屋のみならず長期に渡り成長し続けている企業は、まさにこれを実践し続けて今があると言うことはあまり着目されて来ていなかったのかもしれません。歴史ある老舗企業は、伝統にあぐらをかくことなく常にチャレンジャーの姿勢であることはアドバイザーとしても心に留め置きたいと思います。
寄稿:FBAAフェロー・執行役員 (AFBSA) 上田 雅美
参加者の声
伝統は革新の連続という言葉を私もいつも使っています。そして、後継者がイノベーションを起こすから老舗企業が長寿なんだと思っています。
(FBAAフェロー 桐明幸弘)
西堀さんの幅広い活動を知ることができ、大変勉強になりました
(田宮江梨)
特に「伝統は確信の連続から生まれる」という信念を1万回以上お話になられているという点に感動しました。継続できない経営者が多いので、支援者として伝えねば!と再確認いたしました。ありがとうございました。
(FBAAフェロー 望月俊輔)
海外でのご経験が改めて日本の良さや強みを意識されるきっかけにつながられたお話が刺さりました。また、日本は生活保障もあるから、うまくいかなくてもたいしたことではないとのお話に、成功される方のマインドの強さを感じました。そのくらいの気持ちでやらねばと励まされました。ご苦労されたとしたら、家族とのことというコメントも、大切なお話だなと痛感でした。ありがとうございました。
(FBAAフェロー 村田弘子)
とても勉強になりました。
(横山邦紹)
娘婿を励ます会を主催しております末松大幸です。娘婿がアトツギになり、世界をリードしている。西堀さんの生き様そのものが、これからの子供達の世代にとって活きた教材となります。実際のありのままの事例を語ってくださいました。とても勇気、パワーをいただきました。これからも娘婿の西堀さんを応援していきます‼ ☆★感謝★☆
(FBAAフェロー 末松大幸)
この度は貴重な機会をありがとうございました!
伝統は革新の連続ということで、革新を起こされ続けている西堀社長のお話を大変興味深く聞かせていただきました。
まさに西堀家の「中興の祖」的キーマンでいらっしゃり、西堀家のご先祖様も拍手喝采なのではと思います。
そして、日吉屋の事業や西堀家についても客観的に認識し続けていらっしゃり、物語性、意外性などを言語化、体現されているところに見習うものがありました。
マーケットありきでイノベーションを起こす!という広い視野で見据えていらっしゃる点も非常に勉強になりました!
ありがとうございました。
(FBAAフェロー 山道紀子)
最後に質問したボウズ頭のクリエイターです。素晴らしい講話をありがとうございました。良いものづくりへの一途な思いに感服しました。御社にとってデザイン照明の開発は勇気がいる決断ですが、設計を社内のメンバーに任せず、いきなりプロと組んだことが未来を大きく変えたのだ存じます。また、「娘婿が新たなカルチャーを持ち込む」との考え方にも刺激を受けました。今後も日吉屋さん、TCI研究所さんに注目していきます!
(FBAAフェロー 森原英壽)
カナダで違う文化・価値観と交わった経験、ファミリーでないからこそ見えた日傘の良さと価値、それにアナログとデジタルの両方を良く理解していたこと、も成功への大きな要素であるとは思いますが、やはり《強い愛着と意思》それに《覚悟》が《商品開発~伝統は革新の連続》につながったことを学ばせて頂きました。さらには伝統産業と言われる同業者にそのアイデアを横展開するアイデアも素晴らしいと思いました。最近日本らしさが失われてぐちゃぐちゃになっていると感じることが多かったのですかっとすると同時に社会にももう一度日本らしさを取り戻すことが大事だと感じた次第です。
世の中には沢山の偶然が誰にでもあります。そこに気づきドアノックをして飛び出すことができる人に女神は味方してほほ笑むのですね。
今後ますますのご発展とご活躍を心より祈念申し上げます。貴重な、且つ、日本人魂に火をつける・勇気づけるお話ありがとうございました。
(FBAAフェロー 佐藤一夫)
ネットを介し効果的に「人との繋がり」「情報種集」など効果的に活用し、あらゆる可能性を模索し結びつける行動力は圧巻でした。淡々と質問に対する要所要所にエピソード交え、わかりやすい返答対応も頭の整理力や回転力も感じました。
(中山晴貴)
伝統工芸のイノベーション、世界のプレーヤーとのコラボ、役所、金融機関の巻き込み方
やはりアップデートをするにあたりマーケティング技術は必要だという点で、デザイナー・クラフトマン・金融機関など複数のプレーヤーの協力が必要だと思った。そこが難しい点でもあり、同時に形にできると強いところなのかなと思いました。
衰退伝統産業を復活させる「革新」をここまでグローバルな展開をされたことに素直に尊敬するとと共に感動を覚えます。
「老舗ベンチャー論」定義が素敵です。伝統×革新=老舗ベンチャー
希少性・模倣困難性がファミリービジネスの競争優位性を生みだしている(ユニーク性)
ブランド戦略×グローバルニッチ戦略で商品価値を追求(希少性)
ファミリービジネスの長期持続の価値観=伝統×コアコンピタンス×フィロソフィー=物語り力
最後の生き残りとなった唯一の和傘屋が発想の転換と革新の伝統化に成功したこと。他家養子の強みの好事例。学ばせていただきました。一層のご発展を祈念申し上げます。
「伝統」と「革新」という、一見相反する言葉でしたが、講演をお聞きしてクリアにつながりました!私も関西人ですので、興味深く聞かせていただきました。
大変貴重なお話をいただきありがとうございました。西堀様と同じ「娘婿」の立場からお話をお聞きし、励みになる点が多くありました。本日の内容とは直接関係ありませんが、学生の頃から”合気道”をされていたとのことで、私自身もご縁あって今月から”合気道”を始めたこともあり、またさらなるご縁を感じました。本日は誠にありがとうございました。
伝統産業を見事にグローバルニッチに届け続けられている点もさることながら、「人生のご経験、歩みがすべて一本の線に繋がっていること、若いときの経験は残る、やりたいことをやった方が良い」がとても印象に残りました。日本のみならず、伝統をどう商業ベースに乗せながら次の世代に残していくか。魅力を引き出す職人技を、もっと聴いてみたいと思いました。ありがとうございました。
伝統工芸品と新商品が車の両輪、Next-market-inメソッド等大変感銘を受けました。特に地域商社など金融とのコラボにおいて、大手と組むことで得られるメリットをしっかりと享受していることが素晴らしいです。引き続き、日本の伝統について御尽力頂ければと思います。
課題があって、解決策やアイデアがあっても、それを実現するところでつまづくことも多々あると思います。よい商品を作れば売れるものではなく、BrandingとMarketingの工夫で形にしていった、FBAA的要素だけでなく実業経営として非常に参考になりました。ストーリーで商品を選ぶ時代を先取りされていた点も印象的でした。
和紙と竹を使った伝統技術も視点を変えることで現代でも十分ビジネスに活かせるという視点が重要だと感じました。
希少性の発見や見る角度を変える、気が付くという部分がとても重要で、それには現在の様々なことを知るということではないかと思います。
また、廃れている業界、商品に対しての販促、ブランディングに対する向き合い方も、自身の中で改めて見直す必要があると感じました。
オンリーワン技術、素材を持つことの重要性も大事なファクターと感じます。
大変貴重なお話、ありがとうございました。
ご自身で成し遂げられたこと自体が素晴らしい成果ですが、そのうえ800社も他社を支援され、高い確率で結果を残されていることに感銘を受けました。質疑応答で成功する支援先とは、①やる気②抜きん出た素材の2点を抽出してご教示いただいたことは、長い時間と労力をかけて蓄積された最上のノウハウのエッセンスであり、それをご開陳いただいたことに厚く御礼申し上げます。