事業承継を考え始めたときに
私の取り扱う業務は、幅広く様々なものがあるのですが、比較的コンスタントに扱う案件の1類型として、M&A案件があります。
弁護士がM&A案件に関与する場合、法務デューディリジェンス(以下、法務DDといいます)と各種契約書回りの作成、レビューを行うことが、一般的です。
M&Aとは・・・各種の手法による事業の引継ぎ(承継)
デューディリジェンスとは・・・承継される対象企業の各種のリスクなどを
精査するため、主に譲受側が、士業等の専門家などに依頼して実施する調査
株式譲渡の手法で、事業の承継を行う場合には、対象会社の抱える法的リスクがそのまま、事業の譲受人に引き継がれてしまうことになりますので、法務DDは、重要な位置づけを有し、その結果が、譲渡される株式の価格にも反映されることになります。
私が、法務DDを担当するM&A案件は、ほぼ第三者承継パターンであり、譲渡人サイドに後継者がいないことが理由となっているものが相当数あります。
これに対し、親族内承継あるいは役員・従業員による承継の場合には、法務DDのような調査は行われないのが通常かと思います。
それは、そもそも承継対象の企業の内情を、その属性から譲受人が十分に知っているか、そうでないとしても、いまさら他人行儀にそんなことを求めるのもどうかと考え、実行に移さないこともあるからではないかと想像しています。
けれども、そうであるならば、いや、むしろ、そうであるからこそ、親族内あるいは役員・従業員による事業承継を考え始めた方には、法務DDで調査されるような内容を、事前に先取りして、自ら事前のチェックや準備を十分に行っていただくことが重要になると考えます。
事前準備の最たるものは、株式です。
対象企業の株主が誰であるのかは、極めて重要な問題です。
1990年に商法が改正される前は、会社を設立する際の発起人(株主)は7人必要とされていましたので、よく見られたのが、名義借りの株主(いわゆる名義株)でした。
この場合、真の株主が誰なのかという紛争が後日生じないよう、名義株主と協議を行い、株主名簿が実態に合致するように名義書換えを行っておく必要があります。
また、相続その他の事情により、株式が分散してしまっている場合には、安定的な経営のため、最低でも特別多数割合の株式(100パーセントが最善)を承継人に譲り渡すことが可能となるよう、株式の買い集めを行っておく必要があります。
話し合いで、株式の買い集めができれば、ベストではありますが、どうしても、話し合いで円満に株式を集約することができない場合には、特別支配株主による株式等売渡請求や株式併合手続を利用する等して、株式を集約する(いわゆるスクイーズアウト)という手法をとることも考えられます。
その他にも、対象会社の事業遂行のために必要な資産の名義人は誰か(個人か法人か)、その権利関係はどのようになっているのかの整理等も必要です。
また、昨今は、コンプライアンスが重視されるようになっていますので、法令等の遵守(許認可などに遺漏がないか、未払い賃金がないか、ハラスメントがないか、社内規程に反する運用がなされていないか、そもそも社内規程が策定されているか等)についても、自己チェックしていただくことが求められます。
これらの作業は、実は、丁寧にやろうと思えば、結構時間がかかるものです。
FBAAでは、ファミリービジネスの一つの大きな課題である事業承継の、サポートをするためのツールとして、事業承継計画や三位一体計画を作成することを推奨しています。
これらの計画を作成し、着実に実行することが、上述した事前準備を実施することに直結していると言っても過言ではありません。
FBAAには、様々な立場の方が参加されています。
FBAAで学ぶことにより、自分の専門領域外の知見を増やし、視野を広げることや、同じ志を持つ皆さんとのネットワークを広げること等が可能となり、自分の専門分野についての理解も深まります。
私自身も、FBAAでの学びを生かして、ファミリービジネスの発展に寄与していきたいと考えています。