学問としてのファミリービジネス
私は、同族企業の経営者として、そして第二世代として、FBAAの学びがどれほど大きな意味を持ったかについて書かせていただきます。
私は37歳の時、離婚を機に、父の会社に拾われました。父の判断で経理部の事務をさせてもらっていました。定時には帰宅できるルーティンワークでした。
私は拾われた身でしたので、当然ここに生涯いられるなどとは思っておらず、いずれ会社を離れ娘と私の二人分の食い扶持を自分で稼ぎださなければいけないと考えていました。既に二人の兄も役員としておりましたので、私としては当然のことでした。
ただその当時のフジ物産における父と兄二人の関係は最悪でした。今思えばファミリービジネスの典型的なパターンであったわけですが、まさにファミリーの一員として私もその渦中で右往左往しておりました。
一方、従業員の皆さんにとって私の存在は最も関わりやすいファミリーだったようでした。経営に直接関与しておりませんでしたので何かと話しやすかったのだと思いますし、同時に末娘として父と兄達の間での調整役をしていたこともあり、そのことへの期待や、また同情もあったかもしれません。
当時の私は、経理の仕事は決して得意ではありませんでしたが、従業員の皆さんが大変まじめで、仕事が好きで、フジ物産のことを好きでいてくれていることをとても嬉しく思っていました。
同時に父の作った会社に入ってくれたにもかかわらず、父と兄たちが相当な確執の中で苦労をかけてしまい申し訳なく感じていました。私自身は腰掛けかもしれないが、何とか従業員の皆さんには、「フジ物産に入ってよかった」と思ってもらいたいと思っていました。
これこそ、理屈ではなく同族だからこその思いです。父の作った会社だからこそ、責任と使命を感じていたのです。赤の他人の会社であったら、そのような思いは芽生えなかったと思います。この時の思いこそ、今経営者になってからもぶれずに仕事ができる行動原理となっています。
その後独立の為に中小企業診断士の資格を取得、ここで学んだことをフジ物産で活かすことでせめて恩返しをしようと取得後5年間は会社にいようと決め、実際多くのことを、ドラスティックに取り組んでいきました。
その後、様々な経緯の中で、結果として2007年に私は代表取締役社長になりました。
二人の兄は専務として私を支えてくれています。奇跡のように兄妹の三人体制で仲良く経営をさせていただいています。
兄二人とは従業員の為のファミリーであるという価値観も共有しています。私達は社長と専務という立場でそれぞれにあった役目を担っており、そのことへの敬意と感謝を互いに持っています。
このような経験の中で私は、同族企業であることを大変誇りに思ってきました。社員を大切にし、長期的な視点を常に持ち投資やチャレンジができるのも同族企業だからこそです。
私は、従業員の皆さんの笑顔が嬉しく、経営も大変面白く、常に課題に積極的に取り組んできました。
そして幸運にも一昨年FBAAを知る機会をいただき、ファミリービジネスについて学術的に学ぶことができました。
これまで同族であることに確かに誇りをもっていましたが、感覚的、あくまで個人の経験の中でのことに過ぎないものでした。しかしFBAAで学んだことで、これまで漠然と感じていた同族企業、ファミリービジネスについて、まさに整然と整理され、自分の中に再インストールされたのです。
そして堂々と、ファミリービジネスの課題と強みなどについて他者に対しても伝えることができるようになり、改善すべきことが何かも明確になりました。明確に言葉としてアウトプットできることこそ学問の価値の一つだと実感しました。
そして、私にとってもう一つ大変幸運なこととして、後継者として一昨年入社した甥の二人も7期生として学ばせていただいたことです。
「いつ甥二人を受講させるべきか」西川理事長に相談させていただいた際、早すぎるということはないから7期で受講させてみてもいいのではないかとのアドバイスをいただいた結果です。
このことも想像以上に大きな意味のあることでした。私自身の荷がとても軽くなったのです。
事業承継としては最も課題となる第三世代の甥二人と課題を共有し、共通言語をもとに今後の事業承継を計画的に取り組めるというのは、第二世代で多くの苦労を目の当たりにしてきた私にとっては何とありがたいことでしょうか。
このような自身の経験から、日本の企業の大半を占めるファミリービジネスに特化した学問の必要性、重要性を強く感じています。それは個々のファミリー企業にとってはもちろんですが、間違いなく日本の国力になるものでもあります。
偶然にも、4月には地元静岡で女性の事業承継に特化した取り組みではありますが、静岡県女性経営者団体A・NE・GOの設立メンバーとなり活動もスタートさせることができました。FBAAで学んだことを活かし、自身の会社だけではなく、広くこれからの事業承継者の皆さんの為に貢献していきたいと思っています。