「ファミリー」の視点を加えると企業の見方が広がる

痛みが出るところと痛みの原因となる場所は同じではない

体質的に血の巡りが良くない私は、体調を整えるため、15年以上、定期的に鍼灸接骨院に通っています。肩や背中が凝って大変な時やちょっと体調を崩した時など、とても重宝しています。その院の先生は、私にとっては、ホームドクターのような存在です。

この先生、肩が凝ってどうしようもない時でも、ほとんど肩に施術しないということがあります。こちらとしては肩を揉んでほしいのに、なぜか別の場所を施術することが多いのです。

ある時、先生に尋ねてみました。

「どうして肩を施術しないのですか」。

すると先生は、次のように言いました。

「痛みが出る場所と、痛みの原因となっている場所は同じとは限らないんだよ」。

なるほど、確かに施術後は、肩の痛みは楽になっています。こうした経験から、この先生の言葉は、私の中で強く刻まれています。

私は現在、中堅・中小企業のコンサルティングやアドバイザリー、上場企業のアナリストの仕事をしています。コンサルティングやアドバイザリーでクライアントに接するにしても、アナリストレポートを執筆するにしても、外部から企業を見る目は、ベーシックなスキルとして、必要不可欠です。

外部から企業を見る場合、その企業で起きている現象に気づくことはできます。ですが、起きている現象が派手に見えるほど、その動向にばかり目が奪われがちになります。

このような時、経験則上、その現象が起きている本当の原因は、目に見える現象とは別のところにあることが多いです。

SMAP解散騒動の例

「投信」という金融・投資メディアに以前寄稿した内容になりますが、ひとつの例として、2016年に世間を騒がせたSMAPの解散騒動を取り上げてみます

(なお、私の情報源はメディアの報道だけですので、ほとんどの人と同じです)。

メディアが伝えるところによれば、今回の騒動は、長年のマネージャーの処遇を巡っての分裂騒動に始まり、一時は修復できそうと思われながらも、メンバー間の不仲が決定的となり、解散に至ったという流れでした。

メディアでの報道は、「メンバーの誰と誰の仲が悪い」といった内容が中心だったようでした。こうした情報は、「今何が起きているか」という現象の問題です。しかも、憶測が多く含まれているため、どこまでが本当のことか、分かりづらいものです。

ここで、「痛みが出る場所と、痛みの原因となっている場所は同じとは限らない」という先ほどの言葉を思い出すと、この問題の本質は別のところにある可能性が浮かび上がってきます。

SMAP解散騒動の本質的な問題

メディアの多くが伝える「不仲説」という表面的な現象の奥にある問題は何でしょうか。私は、SMAP問題には、以下のような本質的な問題があった可能性を考えています。

可能性その1

SMAPをひとつの事業と見た時、SMAPは、「異なる個性を持つ5人のアイドルをグループにすることで、テレビ局が必要とするすべてのジャンルに対応し、グループとして全世代的の支持を集める(=視聴率を取る)」事業と言えます。このオールジャンル対応型の事業モデルも、結成以来28年が経って、寿命を迎え、限界に来ていたのかもしれません。

可能性その2

SMAPの育ての親と言われるマネージャー(有力な社員)と、オーナー経営陣との対立が事の発端と言われています。これは、世代交代の時期を迎えつつあるファミリービジネスの典型的なトラブルのパターンのひとつです。組織として事業承継が課題となる時期に、創業家兼経営メンバーと、事業モデルの立役者とも言える有力な社員との確執が表面化し、SMAPメンバーが巻き込まれたという見方ができます。

これらは、あくまで私個人の一見解ですので、実際に正しいかどうかは分かりません。ここでお伝えしたいことは、その見解の正否ではなく、企業または事業を見るにあたり、別の角度から光を当てることが大事ということです。

企業を見るのにファミリーの視点を当てる

企業または事業を別の角度から光を当てるひとつの方法として、ぜひともお勧めしたいのは、「ファミリー」の視点を加えることです。

FBAAのファミリービジネスアドバイザー資格認定講座では、ファミリービジネスにおける「スリーサークルモデル」を習います。「スリーサークルモデル」とは、ファミリービジネスを、ビジネス、オーナーシップ、ファミリーの3つの視点で見るためのツールです。

スリーサークルモデルの考え方は、企業の見方の軸をひとつ増やすものとして、大変有効でした。世の中にある上場企業のアナリストレポートでは、その分析の大半がビジネスの部分に割かれています。株主構成等のオーナーシップの部分は必要がある場合に議論される程度で、ファミリーの部分については、ほとんど触れられることはありません。

情報がなかなか出てこないことや、プライバシーの問題があることもそうですが、一番の理由は、ファミリーに着目するという発想がほとんどないことだと感じています。

最近、大塚家具、大戸屋ホールディングス、出光興産など、上場企業であっても、ファミリーが企業や事業に影響を与える現象が起きています。これらは、ファミリーが「痛みの原因となっている」可能性が高い事例と考えられます。

ファミリーの動向により企業価値が変動するのであれば、ファミリーの視点を加えていかないと、見誤ってしまうかもしれないことを示唆しています。

ここで一点、誤解してほしくないのは、「ファミリービジネス=トラブルメーカー」ということでは決してないということです。私がこれまで直接お話をうかがった上場企業の中だけでも、「ファミリービジネス」であることをうまく活用している、またはビジネスの競争力の源泉につなげている例はたくさんあります。目立たないポイントなので、なかなか気づかないだけです。

ファミリーの視点を加えることはもはや必須

企業を外部から見ることが必要な機会は想像以上に多いです。株式投資の際に個別企業の分析を行ったり、事業投資で投資先を選定したりするだけではありません。士業やコンサルティング、金融プロフェッショナルの方々がクライアントと仕事を進める場合も、営業部門の担当者が営業を行う場合も、はたまた転職をしようとする場合も、意識しているかどうかはともかく、企業を外部から見ているはずです。

一方、「ファミリービジネス白書 2015」によると、日本の企業全体の97%、上場企業(全市場)の53%がファミリービジネスに該当すると言われています。日本中、ファミリービジネスでない企業を探すことが難しいというレベルです。

そうであれば、企業や事業を外部から見る上で、ファミリーの視点を取り入れることは必須のことのように考えられます。以下の点をチェック項目とすることを習慣づけるだけでも、見方は広がると思いますし、冒頭の「痛みの原因となっている場所」にたどり着く可能性が高まるのではないかと思います。

・見ようとしている企業はそもそもファミリービジネスに該当するのかどうか

・ファミリービジネスに該当する場合、どのようなタイプのものなのか

・企業や事業にファミリーがどのくらい影響を与えているのか

なお、私が現在取り組んでいるのは、アナリストとしての仕事を通じて得られた、上場企業に宿る「ファミリービジネス」に関する知見を蓄積し、それをファミリービジネスのコンサルティングやアドバイザリーに活かしていくことです。

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