着実に増加するファミリービジネスのPE(プライベート・エクイティ)ファンドの活用

昨年5月の予見

私は、PEファンドである東京海上キャピタル社で、中堅中小企業の経営権を取得し、事業価値の向上を図る資産運用業を10数年続けております。

昨年5月にFBAAセミナーの場を借りて、私どもが約60%の株式を取得したミキハウス(社名は三起商行)さんをケースに、5年間の投資期間を通じて、中国市場を開拓し(富裕層の拡大する中国アジア拠点展開と、Made in Japanのトップブランドをアピールし、インバウンド需要を喚起)、在庫管理をより効率化し、取引金融機関を建設的に巻き込んで財務バランスを改善したこと。その結果としてオーナーの木村社長、会社幹部・従業員、お取引先皆さまに喜んでいただき、私どもも資産運用者としてしっかりとリターンを実現させていただいたお話をさせていただきました。

ミキハウスさんは、業績絶好調であるばかりか、今般のリオ五輪にて同社所属メンバーが合わせて5つのメダルを獲得するなど、社会的にも素晴らしい貢献をされています。

さてそのセミナーの最後に、

「今後私どもの様なPEファンドの活用を考えるファミリービジネスは益々増えます」

と確信めいたことを申し上げました。期待半分の確信(笑)でしたが、一年経過した実態は如何でしょうか?

一年後の実態

PEファンド運用者の業界団体である日本プライベート・エクイティ協会では、昨年からメンバー企業(30社)が実行した案件をHP上に公表しております。

昨年5月から本年9月1日まで50件の新規投資が掲載されていますが、その内75%の37件(オーナー系上場企業を含め)がファミリービジネスの経営権取得です。

東京海上キャピタルの場合も、4件中3件がファミリービジネス案件です。

案件の数、新規投資に占める比率も増加しており、一年前の私の予見は嬉しいことに大当たりです。

ファミリービジネスとPEファンド急接近の背景

このファミリービジネスによるPEファンド活用増加の背景はどこにあるのでしょうか?

ファミリービジネス側の事情

・後継者不足

後継者が不在~昨年5月の講演でも引用しましたが、経産省の調査(平成24年度中小企業の事業承継に関する調査:http://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2013fy/E002799.pdf)によると、回答があった5,371社の内、62%のファミリービジネスで後継者が決まっていないとの回答がありました。

PEファンドに持分の売却を行うことで、事業承継と相続対策の同時解決が行うことが出来る可能性があります。

・M&A(事業売却)に対する抵抗感の低下

30年近くM&A関連の仕事をしている私からして、一番隔世の感のする事項です。

事業≒ご自分の体であるファミリービジネスのオーナーからすれば、事業売却=失敗の烙印との感が強いのではないかと思っていました。

しかしながら、上記調査によると30代から50代の中小企業経営者の概ね50%は事業売却への特段の抵抗感はないとの回答結果が出ています。

さすがに60代、70代になると抵抗感は高まりますが、70代でも40%の経営者が抵抗感を持たないと回答されています。

それだけ、M&Aが経営手段として一般化したことの証だと理解しています。

・アドバイザーの情報提供力

ファミリービジネスのオーナー層から事業承継等の相談を受ける、プライベートバンカーやM&Aアドバイザー筋の方々は、PEファンドによるフォミリービジネスへの投資案件増加を認識し、PEファンドに対する理解度も高めています。

その結果、アドバイザー筋の方がオーナーから事業承継等の相談を受けた際、同業の事業会社あるいは商社等に加えて、PEファンドも売却先としてオーナーに提言するケースが増加しています。

・比較的若いオーナー経営者の、自社成長に対する柔軟な考え方

既に先代から経営権を譲り受け、ご自分の代で更に事業拡大を図る30代・40代の比較的若いオーナー経営者が、PEファンドの資金力、情報力、人材ネットワーク等を活用して、

ご自分の事業拡大プランの実現力を上げるために、PEファンドに経営権を売却する事例も多数実現しています。

この場合、オーナー経営者は一旦ご自分の持分を売却するものの、売却代金の一部を自社に再投資し、一定割合(10%~30%程度)の経営権を再取得する事例も多く見られます。

PEファンド側の事情

・ファミリービジネス投資の魅力

日本はファミリービジネス大国と言って良い程、技術、経営力、ブランド等に優れたファミリービジネスの宝庫です。

一方でそれらの魅力が健在化出来ているかと言えば、そうでもなく、磨けば更に魅力が増す潜在力に溢れた「隠れたチャンピオン群」と考えています。

魅力的なファミリービジネス経営者と共に汗を流しながら、より良い会社にする過程を体験できるのは、PEファンド業界に働く我々の大きな喜びになっています。

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