ファミリーガバナンスについての雑感

5期のフェローの月崎と申します。

今年6月に東京証券取引所のコーポレートガバナンス・コードが改訂されていますので、ガバナンスについて考えてみたいと思います。

2015年6月に東京証券取引所(以下東証)が出したコーポレート・ガバナンス・コードは安倍政権の成長戦略を背景にしており内部昇格した取締役で構成される取締役会に「独立社外取締役」を2人以上入れる事等ガバナンスの原則を上場会社に求めました。このコードが日本のコーポレート・ガバナンスの改革スピードを速めたとの評価を耳にします。

ガバナンスの和訳は「統治」ですが、「統べる(全体を一つにまとめる)」と「治める(あるべき状態にする)」が合わさり「あるべき姿に向けて組織を統制すること」と解釈出来ます。FBAAのテキストには「誤りなきように導き発展させる仕組み」とされています。

目的としては共通するものの、上場会社、同族会社そしてファミリーのガバナンスはそれぞれの構造が異なる為に「あり様」は大きく異なるかと思います。

上場会社は基本的に所有と経営が分離している中で、経営者を監督することを取締役会が株主から受託していると云う構造がベースにあり、株式が公募されている為に法律や証券取引所がそのあり方を規制しています。

内部昇進の取締役が占めていた時代は経営会議で重要事項が議論され取締役会は形式的な意思決定の場であったものが、そこに社外取締役が入ることで客観的な意見や質問が出されます。しかし、社外取締役には情報量も異なる中で経営陣と戦略議論をする事は容易ではないとの認識もあるようです。

一方、同族会社のガバナンスは、基本的に所有と経営が一致し、オーナーが経営者であり、また、株式は非公開であるだけに会社法を遵守すればよいと云え、同族会社の取締役会は オーナー経営者が主導し強いリーダーシップで会社を動かす事が出来る反面、身内の論理に陥るリスクも孕みファミリービジネスの強みと脆さがこの構造に根ざしているように思われます。

社外取締役の導入は本来望ましい事でしょうが、オーナー経営者が取締役会をどのように考え、どのように運営するかをまず明確にしなければならないと思われます。

いずれにしても上場会社も同族会社もコーポレート・ガバナンスは、持続的な成長と長期の企業価値の向上を目指すものです。

ファミリー・ガバナンスは「ファミリービジネスのオーナーファミリー」の統治システムを意味し、ファミリーが争族化しないよう、またファミリーの価値(ファミリー性)を高める為に自主的・自律的に行うものであり、法等の外からの規制はありません。

ファミリーの規模が大きくなり議決権が分散する等、強い規律が求められるほど評議会・株主協定等のガバナンスの諸機能が必要になります。

今年の6月から東証のコードが改訂され、政策保有株の検証内容の開示と最高経営責任者(CEO)の選解任と後継者計画の透明性と公開性が求められるようになりました。日本の多くの会社で社長が役員を選び、そして次の社長を選任する事が当たり前になっている中でのこの改訂です。

2015年のコードの導入では社外取締役の数等外形的に見え易い改革であったことからスピードも高まりました。その点では政策保有株の検証内容の開示はインパクトがあるように感じます。

一方、CEOの選解任と後継者計画は企業それぞれに時機や状況が異なりセンシティブな内容を含むだけに変革が見え難いところはあります。しかし、制度として改革の背中を押すという意味では上場会社のコーポレート・ガバナンスは更に進歩するだろうと思われます。

同族会社やファミリーのガバナンスに関してはゴシップとして取り上げられマスコミから叩かれはするものの、制度や法的な仕組みとして後押しするものは無く、ファミリービジネスのガバナンスは個々のオーナーの意識や考え方に大きく左右されます。

また、ファミリービジネスは、構造的に「所有」と「経営」に加え「ファミリー」の要素が加わりより複雑(スリーサークル・モデル)であるだけに上場会社以上に知恵を絞らなければならない筈でアドバイザーのサポートも重要になってきます。

コーポレート・ガバナンスにおいてCEOの選解任と後継者計画が一丁目一番地であると云われ、ファミリービジネスにおいては事業承継が重要な事柄であると思われます。その承継が上手く行かず大廃業時代に突入するのではないかと云われ、色々な機関がセミナーやサポートをしています。

但しそこでは株価対策・節税など「所有」の問題やM&Aのような「出口」の話題が注目されていますが、そもそも企業価値を高め後継者にとって魅力ある会社にすると共に、早くから後継者を育成するようなファミリービジネスのガバナンスに根ざすことは殆ど耳にしないようです。

事業や家族の状況は様々ですので一概には言えませんが、テクニックや目先のテーマだけではなく、そもそもの問題も視野に入れなければ廃業の問題は解決に向かわないように感じます。

ファミリービジネスは強いリーダーシップで革新を主導できる強みがあり、それが永続性を支えるものだと思われますが、事業承継も短期のテクニックではなく、長い視野で長期の計画を持って革新を進める「攻めのガバナンス」を意識し、スリーサークルの最適解をオーナーとアドバイザーが探っていかなければならないのではないでしょうか。

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