如何にファミリネスを育てるか ―社会関係資本を育てるMFOビジネス創出を考える―

ファミリー企業の競争優位性として「ファミリネス」がある。これは創業家のもつ競争優位要素の一つであり、創業家が大切に考えている哲学がビジネス文化となり、システム的に相互に作用しあう経営資源となることを意味する。

優秀なファミリービジネスでは創業家に伝わる哲学が経営理念に反映され、企業文化に溶け込み、顧客や従業員などのステークホルダーと強い結び付きを引き出す経営資源となる。

しかし、ファミリネスは資源の役割ではなく、負債に作用する場合も多い。ファミリーの‘人的資本’と‘社会関係資本’が弱い場合は、競争優位性は弱まり、むしろ、ビジネスの負債として作用する。

ファミリー資本は1)人的資本、2)社会関係資本、3)財的資本からなる。このうち、最も大切なのは人的資本をベースとした社会関係資本と考える。ファミリービジネスに対する認識が弱い、あるいは否定的な社会においてはなおさらであろう。

韓国では日本に比べ企業の歴史が浅く、現在3~4世経営時代を迎えている。創業者は経営理論や理念より現場での実践を優先し、実体験を通して経営を学んだのである。2世は創業者から徒弟式で経営修行をおこなった。しかし3~4世は、先に経営理論を学び、経営コンサルティング会社などでの勤務を経て、幹部クラスに入社するケースが多い。

こうした異なるプロセスと背景は、時として先代や職員、そして社会との葛藤の要因となるが、グロバルスタンダードを身に着けた先端経営を行うであろうという期待と創業家だからしょうがないという諦めによって黙認される。しかし、まともにファミリーのマネジメントを受けたこともなく、ファミリネスの意識も存在せず、オーナー一家の地位のみを享受するケースも多く、社会的に反感を買う場合も少なくない。

韓国は財閥中心の非常に硬直的な経済構造となっている。財閥企業を含む95%以上の企業がファミリービジネスである。にも関わらず、ファミリービジネスである認識が浅く、それ相応の法制度も整備されていない。その結果、公私混同や会社の私物化など、ファミリー資本の負の側面ばかりが浮上している。

代表的な事例として、ピーナッツ事件で広く知られている「大韓航空」を取り上げ、ファミリネスを如何に育てるかを考察する。

大韓航空は1945年に創業した運送物流企業の韓進商事を母体としている。創業以来70余年間、航空、海運、陸上で 、韓国を代表する物流グループに成長し、3世経営時代を迎えた。2世経営者である現会長には1男2女があり、大韓航空の社長や専務として経営に参加している。大韓航空は航空機164機をもち、43か国123都市に就航している韓国最大手の航空会社である(2018年3月現在)。

ところが、創業家にかかわる不祥事が続いている。現会長夫妻は脱税と外国人家政婦の不正雇用、横領疑惑をもただれている。2世もさることながら、3世で社長の息子は 高齢者(当時77歳)暴行事件、長女で副社長(当時)は乗務員暴行事件(ピーナッツ事件)、専務の次女は協力会社社員に対する暴言、威力暴行事件などの問題で社会的な批判を浴びている。

社会のバッシングに新聞にオーナー一一家は謝罪文を掲載し、役員から退くが、しばらくだって復帰することが繰り返えす。謝罪広告や裁判費用は会社から支出される。にも拘われず、株式総会やメディアの監視の目は鈍い。

オーナー一家の一連の不祥事により、企業のブランド価値は低下し、営業利益は落ち、 株価は下がるが、誰も経営責任をとらない。2014年のピーナッツ事件による経営損失は約471億ウォン(2015年の赤字拡大3605億ウォンから(2014年)4076億ウォン)となった。その結果2015年ブランド価値評価指数も前年の6位から45位に39段階も墜落した。

このようにオーナーリスクにより損失がが生じても、責任を追及できる制度及び自淨措置が整っていないことが一番の問題と考える。

同事例を「ファミリネス」の観点から考えてみよう。

同企業の創業理念は‘企業=人間’であり、社員との約束として、『人は 我々の 最も大切な価値・資源と考え、社員を尊重・信頼し、グローバル人材に成長できるように支援する』とうたっている。

ピーナッツ事件は、安全最優先であるべき航空会社のオーナー3世が出航直前に安全を任されている旅客機の乗務員(事務長)を機内で暴行したことにその深刻さがある。これはオーナー一家には創業理念はさることながら、本業の本質さえ体化されていないことを意味する。

このようなオーナーリスクが頻繁に起こる原因は次の四つからなる。

1)経営能力の検証なき、承継である。韓国財閥では殆ど継承なき承継が一般化されている。韓国100大企業のオーナー一家の入社後役員(常務理事以上)昇格の平均年数は4.2年、入社の平均年齢は29.7歳で、33.9歳で役員となる。これは一般社員の平均役員昇進年齢である51.4歳より17.5年も早い。

2)オーナーリスクに対応できる制度不備である。オーナーリスクが生じても、オーナーに対し責任を追及できる制度及び自淨措置が整っていない。

3)社会における意識の不均衡である。韓国において『「政権」は有限だが、「財権」は無限である』という言葉がある。つまり大統領の任期は5年だが、財閥の財力は永遠に続くと認識からなる言葉である。こうした認識はメティアさえも従属させ、社会的監視を鈍らせている。

4)最も根本的な原因は、ファミリーに対するマネジメントがなされていないことである。その結果、ファミリーの資本である「人的資本」と「社会関係資本」がゼロに近い状況になっている。

こうした状況を解決していく方法として。人的資本をベースとした社会関係資本を育てるマルチ・ファミリーオフィス(MFO)を考える。

オーナーファミリーの事情をみると、経営承継に直面している3~4世は(中小企業も含め)留学などを通じて経営理論を学習しているケースも多い。そのうえ、自らFBであることに否定的であり、先代のやり方に不満の少なくない。

ところが、経営状況を考えると財閥を除くと思わしくない。つまり、合理的な経営より成長が目先の課題となっていて、経営承継より事業成長を伴う事業承継を優先すべきである。したがって、近年アジアで急増するSFOやMFOとは異なる目線でアプローチする必要がある。つまり人的資本をベースとした社会関係資本を拡大していくファミリー経営と事業成長を伴う事業承継を総合的に提案するMFOが必要であろう。

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