日本のファミリービジネスが注目される事を期待して

私は、創業100年を超えるメーカー同族会社(ファミリービジネス)の4代目オーナー経営者です。オーナー経営者の視点と経験から、この記事を書かせていただきます。

1)日本のファミリービジネス(FBNJ T氏の意見を参考にして)

ファミリービジネスの研究は世界的に行われていますが、その中で日本は世界から注目されはじめていると思います。日本の場合、ファミリービジネスの老舗というと100年以上、古いところだと千年以上続いているところが企業として存在しており、何か特別な経営の仕方を確立してきたのではないか?と思われます。長期ビジョンや「のれん」へのこだわりなど、日本のファミリービジネスは、そこに強く焦点を当てる事が多い様な気がします。

また、社会貢献。昔からファミリービジネスの会社が地元のインフラを整備するということを、普通にしていた時期があります。そして今でも社会貢献という形で地域の活動に貢献している。最近一般企業でCSRという形で行っているものは、どちらかというとそれを道具に使っているに過ぎません。本当のファミリービジネスの社会貢献はそれとは違い、地域貢献が必要だからしているのであり、いわゆる一般企業のCSRとは質が違うと思います。

日本では都心でのファミリービジネスは希薄になってしまっているところもありますが、地方のファミリービジネスは従業員もお客さんもみなさんその地域の人ですから、地元の人と共同体という意識で一緒に成長をしていきましょうという関係です。

それと比較されるのは、アメリカ的な資本主義をベースとした経営です。戦後の経営手法はアメリカから導入されたものを行っている企業が多い中、このような時代になると、やはり限界があるのではと思います。これからはまた、昔言われた日本的経営が中心になるのではと考えています。世界から日本のファミリービジネスの経営がさらに注目されて来る事を期待しています。

※FBNJ (Family Business Network, Japan)

ファミリービジネス(FB)の経営能力向上を目的とするファミリー同士の交流の場として1990年にスイス・ローザンヌに設立された産学協同の非営利団体である。今日、ファミリービジネスに携わるオーナー、経営者、親族を会員約10,000人(50ヶ国)を擁する世界最大の組織。日本では約40人が活動している。

2)日本的ファミリービジネスにおける最近の気づきなど

ビジネスに課題があるのは当たり前です。従って挑戦し乗り越えていかなければならない事は、いかなる経営においても同様であると思います。

この限られた人生の中で、社長業をやらせて頂いているときに、やはりファミリーの取り扱いの難しさ、ファミリー企業を改めて足元から見直すことは大切だと考えています。その良さも悪さも勉強しなければなりません。

最近、あるファミリービジネスで立派な経営をされてきた方に、日本の経営の原点は「和を以て貴し」ということを教わりました。

アメリカという国は同じ考え方の人が集まり、異なる考えをもつ人たちを自分たちの基準に合わせる。世界中をアメリカン・スタンダードにするというやり方です。

しかしながら、日本の場合の「和を以て貴し」はさまざまな考え方の人がいて、それをつぶさず全体をその中で考えようというものです。右を向いたり左を向いたりしている人たちの考え方を変えないで、一歩引いてもらったり、一歩前に出てもらったりしながら全体を考え、調和を図りながら一つのベクトルの向きを合わせることができる。それが本当の意味での日本の「和を以て貴し」である。これを実践できるのが日本のリーダーだとその経営者の方は語られていました。

いわゆる優れたリーダーに求められる一つの要素として、部分最適ではなく、全体最適を優先させるという事とも捉えられます。

私はまさしく「和を以て貴し」が日本的経営の原点というような感じと受け取り、これを今から会社の中で実践できるようになれば、リーダーシップもオーナーシップもうまく舵取りが出来るのではないかと考えています。

3)我が社の創業メンタリティを社史で語る

図1日本的経営の啓蒙の一助になればとの思いで当社(株式会社ケーイーコーポレーション)の創立70周年の記念誌として作成いたしました。著者岡野浩氏には20年来にわたり当社の営業や後継者育成をご指導頂いた方で、得意分野は組織運営・事業遂行上の価値観(継承・形成・変革)マネジメントです。

私が社史としてケーススタディ的な記念誌を作成してみようと思ったのは、2つの側面からの理由です。

一つ目は一般社団法人日本ファミリービジネスアドバイザー協会(FBAA)のアドバイザー資格認定講座(フェロー)を受講中に、同協会の西川理事長より

” 社史は経営者の棚卸本 ” との言葉をお聞きした事によります。初代から私までの経営者の努力の結晶として、記念誌という形で垣間見て頂きたいという側面です。

もう一つの側面は継承を目指す者は創業メンタリティーを高く強く持たなければならないとの思いからです。ただ単にあるものを受け継ぐだけではなく、アントレプレナーシップを持つ事、すなわち意味するところは創業者が基盤を築いた現業の上に新たな創業をしていく事です。

記念誌の構成は

第1章  ケーイーコーポレーションとは ~創業から設立まで~

第2章  三代目経営者 ・ 梶本忠恒

第3章  四代目経営者 ・ 梶本丈喜

第4章  父 忠恒と子 丈喜、それぞれの人柄と経営

第5章  Taking over the Family Business ~ファミリービジネスだからこそ~

となっておりますが、ポイントは3代目である父と4代目の私との経営姿勢、手法やファミリーに対する思いなどに関しての相違や共通点をまとめたところです。

会社の歴史を熟知し、先人の方達の努力、苦労などの重みを知り、理解し、受容していく事は私をはじめ次期後継者にとって大切な資産となるはずです。記念誌はこのような考えから作成しました。

最後に記念誌を作成中に、FBAA同期フェローの深沢英昭氏に「特別鼎談」(四代目の私から五代目の息子)のインタビュアーをお願いしたところ、同氏より日本経済新聞に掲載の (2015年11月18日)” 社史が会社を強くする ″ という記事を頂き、息子や幹部また将来の後継者の為にこの様な記念誌の作成を試みた事は正解であったなと意を強くした次第です。

改めて特にファミリービジネスにおいては、この記事に書かれているように失敗や成功を 「生き方参考書」 として後世に残していくことは大切であると認識しています。

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