ファミリービジネス支援に於いてぶつかる壁

明治42年創業のアイスクリームの町工場を私の父の代でなくしてしまいました。

マーケティング戦略の失敗と長兄への事業承継の失敗の2つの要因が絡んでいましたが、あの時、FBAAが存在していて、FBAAの信頼できるAuthorized Family Business Advisor(AFBA、別名FBAAフェロー)がいてくれたら、今も事業が続けられていたのではないかと思い、2016年11月にAFBAの認定プログラムを修了しました。

現在は中小規模のファミリービジネスの支援をしていますが、大きな「壁」にぶち当たっています。

この「壁」は他の複数のアドバイザー達も認識していました。それは次のような状況です。

中小企業は良くも悪くも社長の考えと人柄次第ということが言われます。私がアドバイザーとして入った企業の一社でも社長さんが際立ったキャラクターで会社を引っ張っていました。

そのリーダーシップは非常に強いもので、幹部の方々は異を唱えることができません。社長さんは会社が厳しい経営状態だったところを立て直した実績もあり、実力もあるので社員の皆さんも社長さんの指示を忠実にこなしていればよいとの意識を持っていました。

こうした会社では社長の着想が的を射ていてマネジメントもうまく機能しているときには問題ありませんが、それでも敢えて言えば後継者が育ちにくいという課題があります。

それが、ある領域で社長の考えた戦略やマネジメント方針が機能しなくなったときにはどのような問題が起きるでしょうか。

このようなキャラクターの社長に「お言葉ですが・・」と異を唱えることはきわめて難しくなります。

そこで、幹部社員たちはアドバイザーとして入っている者に対して、社員からは言いにくいことを社長に直接伝えてくれる者としての役割を課して、社長に諫言してくれることを期待するようになります。

アドバイザーのほうでも、幹部社員にインタビューしたり、一般社員の様子を見たりしていると、事業戦略が間違っているのではないか、マネジメントのここをもっと改善したほうが良いのではないかといったことに気がつきます。

社長が考えを変えてくれさえすればうまくいくのにと思うことがあります。

2000年以降は情報技術の発達によって企業間の格差が縮まり、上場企業の場合、一旦競争優位をつくっても3~5年しか続かなくなってきたとされています。

同族企業は未上場企業がほとんどのため、競争優位は上場企業ほど短期間ではないが後継者は次の競争優位を準備する必要があるとして、「同族の後継者は創業者と同じ起業家精神が求められる時代に入っており、後継者は『それまで通り』ではなく、自分で次のステージを用意し、飛び移らなければならない」と言われています(注1)。

また、最近では「働き方改革」が叫ばれるようになり、マネジメントのあり方が問われるようになりました。

「働き方改革」は長時間労働の是正としての取り組みが先行していますが、職場の風土を改革して、働きがいを向上させなければ本当の効果は得られないものです。

事業戦略の転換に於いても、働き方改革に於いても、トップの強い意志(コミットメント)が必要になります。社長が「変われ」と言わない限り新たな取り組みはスタートすらしません。

ここでアドバイザーが社長に向かって「社長の考えのここが問題です。変えて下さい」と言ったとします。

もし社長の逆鱗に触れてしまうと、”You are out!”となって顧問契約が打ち切られることになり、改革は進まず、元も子もなくなってしまうでしょう。

では、このようなときにアドバイザーはどうすれば良いのでしょうか。社長の逆鱗に触れることは避けつつ、できるところから少しずつ改革に着手しなければなりません。

GE(ゼネラル・エレクトリック・カンパニー)はご存知のようにジャック・ウエルチ元CEOの強力なリーダーシップによって長年に亘り成長を続けてきました。

社内にはウエルチ氏によってつくられた5つの「コアバリュー」があり、これに異を唱える人は1週間で会社から去ると言われた掟でした。

しかし、ウエルチ氏のリーダーシップの下でも、自分が社長を継いだらウエルチ氏の行ってきたことをひっくり返して新しいことをしようという考えの人たちがいて、ウエルチ氏はそのような考えの人たちの中からイメルト氏を自分の後継者として選んだと言われています。

ウエルチ氏自身も社長に就任したときには前社長のやってきたことと違うことを推し進めた人物であり、この後継者選びはGEのいわば伝統的な手法で、歴代のCEOはこうして選ばれてきました(注2)。

ファミリービジネスに於いても、強いリーダーシップを発揮する社長の下にいながら、自分が承継したら新しい挑戦をしようと考えている後継者がいるものです。

伊集院静さんが日経新聞に連載した「琥珀の夢」のなかにサントリーの2代目社長の佐治敬三氏が、先代の鳥井信治郎氏の亡くなった翌年(1963年)に、それまで密かに準備していたビールの発売に踏み切るエピソードが描かれていました(注3)。

2016年1月時点で代表者が交代する前後のデータが確認できる約4万社を対象に、事業を引き継ぐ2年前と継いだ後2年について、売上高成長率の平均を算出し、比較を行った結果、創業者から同族の二代目に事業を引き継いでいる場合に増加すること、及び、後継者の年齢が若い、業務経験が短い、技術や経理に強いなどの場合に成長率が高い傾向にあることが分かりました(注4)。

日本の事業者数の99%を占める中小企業のオーナー社長の中心年齢は67歳、強力なリーダーシップを発揮してきた社長さん達もいずれは引退するときが来ます。

事業承継を円滑に行うことが最も理想的ですが、社長と後継者の考えが違う場合には、バトンタッチの直後から新しい挑戦が始められるように、アドバイザーは粘り強くそのときに備えて後継者と一緒になって準備を進めておくことができればよいと考えています。

 

【出典】

(注1)「ビッグデータで判明 同属企業、二代目の成功条件」

日経電子版2017年9月18日掲載

(注2)元ゼネラル・エレクトリック・カンパニー

シニア・バイスプレジデント、

元日本ゼネラル・エレクトリック株式会社代表取締役

藤森義明氏の山城経営研究所に於ける講演2014年6月

(注3)伊集院静 「琥珀の夢―小説、鳥井信次郎と末裔」日本経済新聞社

(注4)「ビッグデータで判明 同属企業、二代目の成功条件

京都産業大学 沈准教授のコメント」

日経電子版2017年9月18日掲載

Top