ファミリービジネスアドバイザーとして目指すもの

皆様、はじめまして。私は、ファミリービジネスアドバイザーとして、ネクストステージ・コンサルティング代表の大山美和さんと一緒に「ファミリービジネスの事業承継研究会」を主宰しています。

欧米では、「ファミリービジネス」(あるいは最近では「ファミリーエンタプライズ」という言葉もでてきているとのこと。)という概念はかなり浸透しています。

世界で大規模に長く続いている会社はほとんどがファミリービジネスと言っても過言ではありません。

ウォルマート、プジョー、BMW、ルイヴィトン、クリスチャンディオールも皆ファミリービジネスです。

非上場のプライベートカンパニーであるがゆえに、上場会社のような縛りがなくのびのびとファミリーのルールに従って業容を拡大していたり、あるいは頑なに自社の規模やポリシーを変えずに守っていたりという独自のスタイルを持った老舗企業です。

老舗企業といえば、実は日本は世界に約9千社あるといわれる200年以上の歴史を持つ企業数が世界一の国です。100年以上の会社は約28千社と言われています。このほとんどは創業家の系譜によって発展し、永続していく仕組みを持った企業ですから、これらもまたファミリービジネスと呼べると考えると日本は世界でも誇るべきファミリービジネスの宝庫かもしれません。

このように、ファミリービジネスで特に歴史のある会社が集まった世界的な経済団体で有名なのが「エノキアン協会」です。この協会への入会条件は厳しく、

(1)200年以上の歴史があり、

(2)創業者の子孫が現在でも経営者もしくは役員であること、

(3)家族が会社のオーナーもしくは筆頭株主であること、

(4)現在でも健全経営を維持していること、

とかなり厳しいものです。

もちろん、日本の会社も数社がメンバーとなっていますが、200年以上継続する企業数が世界一の日本としては、もっと多くの会社が参加されてもいいように思います。

要するに、真のファミリービジネスと呼称されるには、ある程度の規模を持ち、長年に渡り事業が継続していてその永続性(あるいはサステナビリティ)の仕組みを持った親族企業という必要があるわけです。

さて、過去の歴史においては老舗企業が圧倒的に多い日本ですが、近年になると真の意味でのファミリービジネスは少なくなってきているように思えます。

日本の中小企業の多くは同族経営、オーナー企業と言われていますが、ファミリービジネスがもっている「所有(株主)」と「経営」と「ファミリー」の3つの構成要素がシステムとして機能している(3円モデル(スリーサークルモデル)と言います。)姿ではなく、これら3つの要素がすべてが一人のオーナーに集中してしまい、結果として経営が独裁的、独善的となる経営の弊害が目立つようになっている企業(疑似ファミリービジネス)が多いと思います。

実はここに、我々ファミリービジネスアドバイザーが活躍する機会があると思います。ここでは、疑似ファミリービジネスを真のファミリービジネスに昇華させる総合的なサポートサービスについて知ってもらいたいと思います。

真のファミリービジネスになるためには、それまでオーナーとして自由に経営を行ってきた状態を本人からすれば相当窮屈な状態に変えることになります。

経営についてはコーポレートガバナンスを確立して内部統制をしっかり整備することから、ワンマン経営はできなくなりますし、親族についてはたとえ反目するファミリーがあったとしてもファミリーガバナンスを整え、親族が一致団結して企業を維持発展していく仕組みを作る必要があります。

そのような目的を達成するためには、ファミリービジネスアドバイザーが経営者ファミリーとしっかりした信頼関係のもとで、以下のような順番でアドバイスを行い、疑似ファミリービジネスを真のファミリービジネスに昇華させていくことが可能だと思います。

1.事業と経営体制の総合的な調査・分析を行うことで、親族間の争いや実態の財務状況など通常ではわからない根本的な課題を抽出する。

2.分析結果からみえる課題の解決方法を、ファミリーとの信頼関係をベースとして具体的に企画する。

3.課題解決の過程において、ファミリービジネスの特徴である親族間の意見調整など専門的なノウハウを駆使して実行支援する。

4.事業の永続性を担保するための理念やビジョン、ファミリー会議やファミリーガバナンスを確立する。

5.刹那的な相続対策ではなく、長期的な事業承継計画の策定を支援する。

このように考えていくと、ファミリービジネスアドバイザーが最も必要とされる場面は、つまり疑似ファミリービジネスが真のファミリービジネスに昇華するチャンスは、実は「事業承継」の場面ではないでしょうか?

事業承継においては、アドバイザーが社長と後継者候補はじめ、主要株主、オーナー家のメンバーや経営幹部、従業員、取引先と、多岐に亘る関与者に対して、必要な場面で、それぞれに向き合い、傾聴し、可能性を惹き出し、気づきを与え、企業価値を向上するという解決へと導いていくことが求められています。

あらゆる会社のあらゆる問題に対してすべて対応が可能な応用力が必要なのですが、これができる総合プロデューサー的アドバイザーこそがファミリービジネスアドバイザーに求められている能力ではないでしょうか。

それゆえ、私どもでは、そのような総合的かつ包括的なプロデューサー的アドバイザーを目指し、具体的な各人の専門能力を見極めてクライアントに的確なアドバイス体制を執るための実践的研究会『ファミリービジネス事業承継研究会(FBSC)』を開催しています。

戦後の日本においては、一方的に公開企業、上場企業が善であり、非上場のオーナー企業は悪の典型のように見下されてきた歴史があります。

確かに、一族経営の悪い部分は目立つし、過去に悪い事例はたくさんあったかもしれません。

しかし、一方で短期的な利益のみを追求せず、地域貢献・社会貢献を第一として「売り手良し、買手良し、世間良し」の三方良しを、経営理念としてきた老舗企業が世界で最も多いのも日本です。

日本的経営の本当の良さを再確認し、このような真のファミリービジネスの会社を1社でも多く増やすことができるのではないかと思っています。

このために、日本ファミリービジネスファミリービジネスアドバイザー協会で多くのプロフェッショナルが誕生し、全国に普及して、数多くの中小企業を堂々たるファミリービジネスに昇華させていくことを期待しています。

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